ナニカある?(その5)
ボクが大学教育に本格的に関わったのは、会社を作って約1年後の1988年頃からです。某新聞社から大学ムックの制作を依頼されたのが始まりでした。大学なんてどこでも大差はなく、むしろ学生の心構えの方が大切だろうと考えていたので、最初はあまり面白い仕事とは思えませんでした。
当時の大学選びは入試偏差値が基本であり、要するに合格して入学した事実が重く見られていました。だからこそ「可」ばかりで卒業しても、仮に中退しても、その価値は維持されたのです。
その結果として、大学は勉強でなく、遊ぶ場となってしまいました。この頃に大学に入学あるいは卒業した人たちは、そうした経験から大学の学業をあまり評価していません。「どうせ大学なんて」と考えて、出身大学の名前つまりラベルだけが強く意識されるわけです。
ところが、1990年代になると大学の設置基準の大綱化(規制緩和)や、18歳人口の減少から新卒の就職難など、これまでのノンビリした環境が大学にとっても学生においても一変したのです。経営的な生き残りが課題となれば、大学も変化を迫られることになります。
そして、進学率上昇によって大学がユニバーサル化(大衆化ともいいます)したため、教育もこれまでのような放任主義では済まなくなったのです。簡単にいえば、人材育成という色彩が強くなってきたわけですね。
こうして眺めてみれば、大学ほど変貌を求められた産業はないといっていいでしょう。少子化の影響もいち早く受けているわけですから。もちろんダメな大学もあるでしょうが、それを事細かに言いつのることが創造的で建設的とはボクには思えないのです。
というのも、その一方で、果たして企業や社会はそれほどに変化しただろうかと考えるからです。もちろんIT産業の勃興など新しい要素は目まぐるしくありますが、大きく見れば「輸出依存の工業立国」ということに極端な変化があったとは思えません。
貿易の相手先がアメリカから中国にシフトして、ようやく何とか食っているだけで、ほとんどの産業が長期低落傾向にあります。「観光立国」「知財立国」など、政府のかけ声はいろいろあっても、まだまだうまく機能していないのが実際でしょう。
たとえば産業を現場とすると、この現場から果たして新しい時代に必要な発想や改革が生まれてくるのかなあと思うわけです。現場は常に保守的であり、変化を嫌うことは体験的に皆さんが知っているところでしょう。
もちろん改革は現場に根付いていなければなりませんが、新しいモノやコトがボトムアップで実現されるでしょうか。海外進出などは、やはりトップダウンによるガバナンスがないとダメですよね。誰も言い出しっぺでリスクを負いたくないですから。
その一方で、これまでの経営者は社内外の「政治」だけに執心して、外圧がない限りは現状維持でしたから、時代や世界から取り残されるのは当然といっていいのではありませんか。
つまり、新しいモノやコトを求めるのであれば、一度は現場から離れて、俯瞰的なポジションに立つ必要があるとボクは思うのです。その格好の場が大学ではないでしょうか。学部は社会人にとってあまりに基礎的ですから、そうなるとやはり大学院ですよね。
実は大学院の研究科になると、これからの日本に必要と考えられる新しい分野を専門とするところが結構多いのです。特に21世紀に入ってからは注目すべき研究科が続々と誕生しています。
もちろん修士課程の2年間でスペシャリストになれるわけではありません。あくまでもスタートなのですが、現場では得られない展望や理論は修得できます。
それでも文系の人なら「学問的なことが実務に役立つのか」と疑問を持つでしょうね。その答は「役立つ」です。役立てる方法(応用)は自分で考えなければなりませんが、少なくとも重要な基礎は教えてくれるからです。
これは別のムックで紹介する予定なので、このブログでは詳しく説明しませんが、一例を挙げれば「環境」となります。温暖化ガスの削減は、企業における現実的な課題になってきました。「排出権の取引」は国外だけでなく、国内でも適用されようとしています。
ということは、環境抜きで経営を考えることはもはやできないわけです。
では、環境経済、いや環境経営のプロが社内にいるでしょうか。国際的な大企業やインフラ系の大手ならすでに専門部署はあるはずですけど、大多数の会社にはいないはずです。コンサルタント任せもありですけど、おカネはかかりますよね。そして、そのコンサルティングの適否は社内の誰かが判断しなければなりません。それができる人は社内にいますか?
売上と利益管理以外に、経営に関わる要素が新しく増えたわけです。ホラね、こういう新しいことは大学院で本格的に理論からやっていかないとダメじゃないですか。
オジサンたちが「そんなことは知っている」と言うコトなんて、もう時代遅れもいいところなのです。
そういう新しいことを専門的にやっている大学院を知るだけでも、これからのキャリアづくりの大いなる参考になるとボクは思うのです。
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