ナニカある?(終)
1週間以上に渡って、大学院などがビジネスマンの「ナニカ」に貢献できると紹介してきました。このことはボクのもう一つの得意分野である資格にもいえるのですが、こちらは少し条件が変わってきます。
というのも、ホントは違うのですが、一般には資格取得がゴールだと考えられています。確かに公認会計士は監査が独占業務であり、弁護士も法廷代理ができます。国家資格でこのような独占業務を持つものは、いわばライセンスですけど、だからといって永続的にメシが食える魔法の免許とはいえません。
資格ビジネスの基本は、顧客から報酬を得る仕事だからです。医師は医療保険がありますけど、やはり顧客というか患者を診療しないと請求はできないですよね。
公認会計士も監査をすると国や証券取引所から収入が得られるわけではなく、当該企業から報酬を得ます。だから時には粉飾決算や不正行為に荷担したなどとして新聞を賑わすわけです。税理士などほとんどの資格は、顧客を獲得して要求された仕事をしないと報酬が得られません。
ということは、つまり顧客のトクになることをして人気を高めていかないとダメなわけです。
例外的に、不動産鑑定士だけは公示時価の調査など国からの仕事が複数ありますが、近年は競争が厳しくなってきたといわれます。
有資格者が少なかった大昔であれば、特別なことをしなくても顧客は集まってきたでしょう。しかし、すでに1990年代半ばには「公認会計士として独立したのに客が来ない」と怒って新聞に投書した人が登場しています。
今から考えれば大笑いの見当違いですけど、有資格者が多くなれば、必然的に競争が激しくなり、特別なスキルやサービスが他の有資格者との差別化につながるのはあたり前です。
税理士などは典型的で、しばしば指摘してきたように「税務署の代理人」と見紛うような定型的な仕事しかできない人を顧問にする会社は少ないでしょう。だから独立してもうまくいかない。せいぜい就職や転職の時の看板にするしかない。そうなると取る価値なんてあるのかよ、という三段論法になってしまうわけです。
以前にタクシーの運転手さんから「10年先でも大丈夫な資格はないのか」と訊ねられて閉口しましたが、そんな資格があるならボクが取ってますってば。新人弁護士だって就職難といわれるくらいですから、公務員のほうがよほどノーリスクです。
かつては難関試験ほど美味しい利権が伴なっていましたが、もはやそうとは言えなくなってきました。だから司法試験の合格者を抑制せよと日弁連は言いますが、これが自由と平等の民主社会を守る正義といえるのでしょうか。
ボクは、そもそもすべての原因は資格の内側に構造的にあると考えています。
というのも、たとえば税理士試験に合格するためには、それこそ「税務署の代理人」としての勉強が要求されるからです。すべての資格試験は、自動車の運転免許のごとく、その仕事に必要な知識とスキルと倫理などで構成されています。そこには顧客はこうすれば喜ぶとか、顧客のトクになるよという事項はまったくいっていいほどありません。
とにかく設定された特定のヒナ型に適応することが合格の条件なのです。
にもかかわらず、独立すれば、あるいは社内にしても、仕事は顧客からの要望が中心となります。つまり、そうした顧客満足につながるような「応用」ができない人は、資格があっても「できない人」に見做されてしまうわけですね。
もっといえば、顧客の要望を先回りしてサービスしたり、新しい仕事を開発していくことがプロフェツショナルなのです。
ところが、資格の勉強にそんなことは含まれていないのです。仕事の本質がサービス業であるにもかかわらず。
だから、ある有資格者に仕事が来ないから、この資格は通用しないのだと短絡できないですよね。にもかかわらず、この資格が通用するとかしないとかがいつも喧伝されています。
再度言いますが、資格の勉強には顧客の要望や欲しいサービスのありようは含まれていません。独立するなり、会社で資格を応用していく段階で、それを自分で身につけていかねば、他人から「役立つ」とは言われないのです。
ここのところをカットした有要不要論議はまったく時間のムダと言うほかありません。だからボクは試験に合格→賢いエラい→高給を保証、とはならないですよねと前に指摘しました。
たとえば『キャリア・チャレンジ2009−2010』でも書きましたが、臨床心理士がカウンセラーの資格だとすれば、職場は学校などに限定されてしまいます。ところが、会社の人間関係の負荷を軽減して、仕事の効率化や生産性の向上に貢献できる資格にすれば、依頼したいと考える企業はいくらでもあるでしょう。
資格の範囲を知悉しなければ合格はできませんが、それを超えていかなければ仕事やおカネにはならない。これを前提とするなら、資格もまた立派な「ナニカ」になり得るわけです。
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