ホントにあった「奇妙な話」
編集制作会社を20数年やっている中で、いくつか奇妙な出来事に遭遇しました。
暑苦しい夏ですから、さしつかえのない範囲で、2つほどゾッとする「奇妙な話」をご紹介しましょう。話が長くならないように脚色は施しましたが、内容はすべて事実です。
1)「通らないことが確実なプレゼン」
ある自治体の観光開発企画の依頼を受けたことがあります。出版関係とは異質の分野ですけど、ボクは新しい仕事が大好きなので飛び付きました。
打ち合わせで、先方のオリエンテーションの内容を聞き、こちらも分からないことなどを質問。最後に締め切りを確認して、「そんなところでよろしく」と担当者は資料をまとめて威勢良く立ち上がりました。
それでドアに向かったところで、彼の足がふと止まったのです。ゆっくりと振り返ると、無理に作ったような気楽な調子で、こう言いました。
「どんな提案でも、これは通らないプレゼンなんです。もちろん企画料はお払いしますから。じゃ、それを踏まえてということで」
最初から落ちることが分かっているプレゼンのために、アタマをヒネって企画書を作る。クリエイターにとって、これほど怖い話はないですよね。
だからといってテキトーにモノを考えるなんてことも、できるわけがありません。そこで、ボクは「サグラダ・ファミリア日本版」を構想しました。
これはガウディの設計したスペイン・バルセロナにある高層の教会ですけど、1882年に着工したにもかかわらず、100年以上たった今でも完成のメドが見えません。おかげで世界中から観光客が集まる、スペインの誇る名所の一つになっています。
せせこましいヘンなハコモノを特急で建ててすぐに飽きられるくらいなら、この教会のように、100 年くらいのロングスパンで何かを建築しましょう、と提案したわけです。外装や内装には当代一流のアーチストたちを起用する。1人あたり構想から完成まで2年がかりなら、100年で50人。一度に20人が担当すれば合計で1000人は参加できます。彼らの彫刻などが、この建物を飾っていくことになります。
そうすると、いつ行っても建築途上ですから、建物の見え方は常に変化することになります。するとリピーターも次第に増えていくと考えられるわけですね。
どうです、素晴らしいアイデアではありませんか。
しかし、言われた通りで、この企画が通ることはありませんでした。
この理由は、分かる人には分かるはずです。分からない人は、相手が自治体という前提で考えてみてください。
本当の理由を知ると、さらにゾッとします。
2)「他社と同じでいいんだよ」
これも出版業界ではありませんが、ある弱小コンビニ・チェーンのSP(販売促進)を手がけたことがあります。もう今はないかもしれませんが、他のコンビニよりロイヤルティ負担を軽くすることで看板を変えさせ、自社の扱い商品を増加させていくという手法です。
利益が増えるので、コンビニのオーナーには魅力的でしょうけど、すでにこの頃はコンビニも飽和気味で、個性や特長を出していかないと生き延びられないとボクは考えました。今では予想通りに、生鮮を強化したり、無農薬野菜などコンビニは多様化しつつあります。
そこで、もっと発展させるためには他のコンビニに対する差別化が必要ではないかと、その会社の会議室で提案したのです。担当者はふんふんと肯きながら聞いてはくれましたが、突然に掌をボクに向けて話を制し、決然とこう言ったのです。
「差別化は必要ない。他社とまったく同じでいいんだよ」
目が点というより、あまりに気分が悪くて吐きそうになりました。工夫したり新しいことを考えるな、というのですから。これも怖い話じゃないですか。
後追い以外のことは一切やらないコバンザメ商法といえば言えますが、そんなことでいいのでしょうか。同業他社との差別化戦略こそが「顧客の創造」に結びつく基本中の基本だと思うんだけどな。
確かにスターバックスをパクったようなコーヒー・チェーンもありますけど、それでも内容や経営はそれぞれ違うはずですから、やはり今でも、この担当者というか会社のやり方や思考は理解することができません。
だって、どこかの後追いでモノマネなんて、社員としてもツマらないですよね。
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