講演会の補遺(続)
資格や検定は戦後いくどかブームになったそうですが、近年では何といってもバブル崩壊後の1990年代でしょう。
この当時も新卒の就職難であり、社会人もリストラの危機に脅えていました。その中で資格・検定だけでなく、大学や大学院に入学する社会人も増加していったのです。これは「空白の10年」とも「20年」ともいわれる長期不況が生み出した唯一といっていい明るい変化です。
この長期不況は新卒就職に限れば、2003年の3番底までありました。
ところが、それを待たずに、2001年頃から資格や検定に対する空気がかなり変わってきたのです。
具体的には資格の情報誌があまり売れなくなってきました。それに先駆けたように、ボクが書いていたダイヤモンド社の月刊『エグゼクティブ』が休刊となり、2004年からの新卒就職の好転で、いよいよその気配が濃厚になってきたのです。一時は大変に賑やかだった資格・検定関連のムックも、この頃にはすっかり整理されてしまいました。
ところが、そこに2008年秋のリーマンショックですからね。
おかげで2009年からは大卒者で専門学校に入学する人が再び増えましたが、資格や検定に関しては必ずしも「歴史は繰り返す」とはいえないようです。
というのも、その神通力というか御利益には限度があるとみんなが知るようになったからです。特に、新卒も転職にしても、採用担当者は1990年代の大卒者が多くなり、自分自身も資格を目指したことから、その実質的な価値を理解していると考えられるからです。
では、新卒予定者は資格や検定にまったく無関心かといえばまったくそうではありません。大学では資格・検定の課外講座を設置するのが常識的となり、教養教育→専門教育→実学→就職分野関連の資格取得という流れのカリキュラムを組んでいる大学は決して少なくないはずです。
さらに、就職内定者の対談などを読んでも、「資格はあまり関係ない」と言いながらも、2つや3つの検定を取っていたりします。社会人にしても、有効求人倍率が0.5では資格や検定を持っておいたほういいのかな、という意識はあるでしょう。
だからこそ、講演のタイトルを「たかが検定、されど検定」にしたのです。
しかし、資格や検定を求める消費者としての行動は、かなり画一化されています。むしろ、自分で本気になって選ぶ気があるのかなとすら思います。
「ネイルにしようかFPにしようか迷っているんです」
これは営業を担当している若い女性から実際に聞いた言葉です。どちらも確かに人気ですけど、あまりにも畑が違い過ぎます。FPか簿記か税理士ではなくて、ネイルですからね。この段階では相談に乗りようがありません。
たとえば2007-08年の受験者規模では、漢検(不祥事以前のデータ)、英検、マイクロソフト関連、それにTOEICがベスト4であり、合計で年間に900万人近くが受験しています。
その一方で、ベスト5以下は極端に受験数が減っていきます。
この理由はまことに簡単で、いずれも「オマケ」が付いていることに特長があります。漢検も英検も、学校教育の中では入試で評価されたり高校の単位になったりします。マイクロソフトとTOEICは企業が評価します(するとされています)。
そうしたオマケがなくて、しかも知名度の低い資格や検定には、見向きする人が少なくなってきたというのが、ボクの体感的な印象です。
つまり、「みんなが行くからボクも行く」大学と同じで、「みんなが取るからボクも取りたい」という感覚ですよね。
資格・検定の中にも、これは現代社会で意味があるのか、あるいは取ったところで、知識以上の何ものでもないなど、資格や検定のあり方にも問題があります。
その反面で、「他の人とは違う人材になりたい」あるいは「これからは違う人材にならないダメ」という意識が希薄になっているわけです。これはもちろん、資格や検定の側の意識不足や広報が足りない面も大きいのですけどね。
いずれにしても、文部科学省も厚生労働省も、多くの人たちがまるで気づいていないのは、もはや就業力や就活対策の時代ではないということです。
率直にいえば、素直で上司の言うことを良く聞いて、そこそこ積極的でコミュニケーション能力もあるという人材は、どこでも余っているといっていい。これまでの鋳型にハマった人材なんて、もういらないのです。でなければ、パナソニックが新卒の8割を外国人なんてことにはなりません。
これまで日本企業に入る時には、日本人であることはアドバンテージでした。でも、内需低下で世界を目指す企業にとっては、日本人かどうかなんて問題でなくなっていくでしょう。
その時に必要とされるのは果たして何でしょうか。
「就活力」や「就業力」などではなく、やはり「人材力」となりませんか。その「人材力」に、資格や検定はどこまで寄与しているかというのが、ボクの掲げた本当のテーマだったのです。
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