21世紀人材(8)リスクマネジメント(1)
尖閣列島の漁船衝突ビデオがついに流出してしまいました。もしも背後に深い政治的な意図がないとしたら、やはり予期せぬ機密情報の漏洩であり、政権と行政の管理はどうなっておるんだということになります。
さらに、中国やロシアとの関係も、日本の国益にとっては大変に難しい状況です。国家としての危機管理は大丈夫なんだろうかと、素人でも思わざるを得ません。
この危機管理を英語で言えば「リスクマネジメント」であり、確か2004年〜2005年頃には話題になったのですが、1990年代半ばの「ナレッジマネジメント」と同様に今では萎んでしまった観があります。
後者の「ナレッジマネジメント」も実は極めて21世紀的な考え方だと思うのですが、日本という国はブームが来ると爆発的に話題を消費し尽くして、流行が去るとすっかり忘れてしまいます。これはマスコミの報道にも責任はありますが、社会はブームやトレンドだけで動いているわけではありません。大勢に流されないで、冷静に世の中と自分の周囲を見極めるという姿勢もリスクマネジメントではありませんか。
もちろんメディアの報道がなければ社会的な認知も得られないのですが、モノゴトの本質は、トレンドとして話題になった以前と以後にあります。ワッと話題になる以前に必ず「芽」があって、そこにちゃんとした背景や理由があり、話題が去った後でもなお残ったものが「本質」になるとボクは考えています。
その意味で「リスクマネジメント」は、そろそろ本質になってきたのではないでしょうか。というのも、日本型雇用の崩壊、とはいっても賃金だけはきっちり年功序列のおかげで、会社と社員との信頼関係は不安定になりました。社員以外に、派遣やアルバイトという非正規雇用の従業者が会社に出入りすることも新たなリスク要因でしょう。待遇格差は感情的な軋轢につながりやすいからです。
さらに人権意識や社会意識の高まりによって、内部告発も法的には奨励されています。現実には告発者は仲間外れや、ヘタすれば犯罪者にされてしまいますが、それでも「クサいモノにはフタ」という処理は困難になってきました。
つまり、企業は社会に開かれた存在でなければ、信頼を得ることが難しくなってきたわけです。けれども、堅いカラを脱ぎ捨てれば、今度は情報などが漏洩しやすくなります。早い話が企業体質さえ「健全」であれば心配ないとなりますが、従業者のミスや事故などはいつでも起こり得ます。
加えて、為替変動などを含めたグローバリゼーションによる外部リスクなど、その要因が急増してきたことは事実でしょう。
こうしたリスクは2つの側面で考えることができます。
1)内部要因と外部要因
2)リスクの予防と事後処理のテクニック
いずれにしても、リスクマネジメントがいよいよ必要になってきたことは論を待たないはずです。トレンドが終わったどころではなく、これから人材ニーズが急速に高まっていく分野ではないかとボクは考えます。
ではリスクマネジメントとは何か。
その答は「何がリスクなのか」ということに尽きるでしょう。リスクの正体を特定しておかないと、そのマネジメントは「みんなで注意しよう」という精神論になってしまうからです。
また、それを特定することによって、学ぶべき内容と人材モデルを想定することができます。
企業統治=ガバナンスの徹底、と言ってしまえばそれで終わりになるので、思いつく限りをまとめると下記のようになるでしょう。これらは内部要因も外部要因も想定できます。
●金銭的なリスク
ファイナンスの失敗、融資返済などの計画ミスなど。→金融、会計系
●人材によるリスク
横領や着服その他の人材管理不徹底によるリスク。→人事、労務、組織管理系
●業務上のリスク
事故や災害など業務活動に伴うリスク。→生産管理、組織管理系
●法律的なリスク
知財系の侵害。故意・過失を問わない違法行為。→法務、知財系
●情報のリスク
特にIT系での情報漏洩、ハッカーによる攻撃など。→情報システム系、その他
●安全に関するリスク
食品・製造物・サービスなどの安全管理、リコールの対処など。→人事・組織管理、物流、生産管理系、その他
企業は、ヒト、モノ、カネ、それに情報で成立しているといわれますから、これをひとくくりにすれば、それぞれにリスク要因があり、それぞれに予防管理=マネジメントが必要となるわけです。
このように多岐に渡るため、リスク管理は「経営的視点」と「特定分野のプロの視点」が必要となってきます。もちろんプロにも経営的視点は欠かせないのですが、実務をベースに考えれば、やはりそれぞれの分野にリスク管理のプロフェッショナルを配置しておくことが必要になってきます。
また、しばしばテレビにも登場しますが、リスクコンサルタントという職業も定着途上にあると思われます。
日本の会社は伝統的に、こうした「予防管理」にカネを投じない体質があります。設備投資は利益を産む前向きのものでも、事故予防などのリスクヘッジは後ろ向きの経費と考えてきたからです。しかし、トヨタのリコール問題のように、企業の社会性が厳しく問われるようになってきたので、大企業では専門家の養成あるいは導入、中小企業では定期的なコンサルタントのチェックまたは指導が必要になってきました。
だからこそ、リスクマネジメントはトレンドオフどころか、これから本格的に求められ人材モデルだと思うわけです。
次回は、これについて具体的に紹介しましょう。
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