中高年と資格(上)
ある雑誌から、「中高年が取っておくべき資格を教えてください」という依頼がきました。こちらも受注産業ですから、それなりに対応しましたが、何せ電話取材だったので、いろいろと心残りがあり、その内容とは異なる方面から考えてみたいと思います。
まず、一口に中高年といっても、中高年ゆえにいろいろな人たちがいます。大企業に勤務していて、名刺で仕事ができる人は、その会社で余生を過ごすつもりではあれば、資格なんていらないでしょう。
ただし、近頃は目先の業績が良くても、いつ何時リストラの憂き目にあうか分かりません。日本の総人口は減少に転じており、大企業ほど世界に出ていかないと発展どころか衰退だってあり得ます。そうなってくると、海外に派遣して工場や子会社などを管理できる人材かどうか、なんてことが問題になったりします。
だから今から英語を勉強してTOEICでハイスコアという発想もないわけではありませんが、それ以前に、管理や監督をできるキャリアがあるのかが本質的な問題となります。だから資格や検定を取っておけば安心、なんて言えるわけがないですよね。
普通に考えれば、資格を取ろうとする以前に、「あなたは何をしてきたのか、そして今は何ができるのか」から始めないと、実はどんな資格が有望かなんて分からないのです。たとえば宅地建物取引主任者という資格は不動産業界では営業所必置の国家資格ですが、別の業界では「へえそうですか」で終わってしまいます。
大企業は、製造系は別にして、ことホワイトカラーに関してはスペシャリストを育成してきませんでした。人事に4年、総務が3年といったローテーション人事が典型的で、その会社の社員としてはプロフェッショナルでも、特定業務や他の会社で同じ能力を発揮できるとは限らないのです。
会社を放り出されても通用するプロになるべきなのに、こうした人事制度のもとではプロになれるチャンスがなかった。今の若者から見れば中高年は恵まれているように見えますが、漁船で言われるように「板子一枚下は地獄」といっていいかもしれません。
だから資格、という発想になるのでしょうけど、若い人ならいざ知らず、中高年で資格を取ったからといって、実務経験が伴わないペーパー資格では、実際問題として評価されにくいはずです。
と、脅かすのはここまでにして、現実論として考えれば、大企業であれ中小企業にしても、会社で働いてきた実績をわざわざチャラにすることはありません。せっかくのキャリアなんだから、これを活用する方向で考えるべきです。
人によって異なるので一般化はできませんが、人事・総務・労務・財務・経理などの内勤・間接部門の経験が長ければ話は実に簡単で、それに関する資格を取ればいいのです。人事系なら社会保険労務士、経理なら税理士か簿記1級、財務系ならFPなどファイナンス系。こんなことは紹介しなくても理解されているはずです。
こういうケースでは「キャリアのストーリー」が分かりやすく、その客観証明として資格がカンバン効果を発揮します。初対面の人でも「ベテラン」として認識しやすいわけです。
つまり、こういう「キャリアのストーリー」を自分でこしらえた上で、その証明になり得る資格を取っておくというのが、実はテッパンの法則ではないでしょうか。逆にいえば、こうした「ストーリー」が作れないような資格を慌てて取っても、実績の裏打ちがないだけに逆効果になるわけです。
難関でも資格さえ取れば人生バラ色なんて考えている人はもはやいないと思います。新人弁護士ですら就職難といわれているのですから、誰にでも特効薬として機能する資格なんてあるはずがない。
しかしながら、前述したような「キャリアのストーリー」が描けて、その延長線上に資格があれば、相当程度の効力は期待できるわけですね。
これは営業系もまったく同じで、そのポイントは「企画」「マネー」「法律」だとボクは考えます。企画力については資格なんて見当たりませんが、マネーや法律ならいろいろとあります。業界での実績などを「ストーリー」として構成できれば、プラス資格でキャリアの形は整います。
もう一つ。企業が中高年に期待するのは専門性だけではなく、マネジャーとしての能力です。若い人たちの指導や管理ができるかどうか。そこで実績を踏まえた「ストーリー」が描けて、さらにMBAや中小企業診断士といったマネジメント系の学位や資格があれば、説得力も高まるわけですね。
こうした「ストーリー」を2つか3つ作ってみて、自分のやりたいことも踏まえて1つを選び、その証明や、延長線上にある資格や検定を考えてみる。こういう方法論が、これまでの資格や検定情報に欠けているのではないかと思います。
だからこそ、「この資格があれば……」なんてことを一律に言えるはずがない。ボクはすでに百万回くらい言ってきたことですが(もちろん誇張ですけど)、なかなか理解してもらえないのが残念なのです。
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