ジュネーブサロン2011雑感(3)
昨日のブログで紹介した2針薄型時計が象徴するように、高級時計の傾向を俯瞰すると、ケースサイズの小型化・スリム化が進行中に見えます。リーマンショックの2008年あたりまでは「デカ厚」がトレンドでしたが、腕時計は人間の手首が相手なのですから、大きくなるといっても限度はあるわけですね。そこに行き着いてしまえば、逆の方向に転進するのは当然といえば当然です。
それと、やはり時代の雰囲気というのも大きいでしょう。ファッションの傾向がどうかは知りませんが、景気の先行きが不透明な時期には、大きくて派手なものよりシックで落ち着いたエレガントが求められるのは不思議ではありません。
ただ、時計と一口にいっても、クォーツの数千円レベルから数千万円まで途方もない広がりがあります。その中で、せっかく高級時計を腕にするのであれば、それなりのボリュームや質感は欲しいじゃないですか。
というわけで、ケース径に関しては、メンズなら40ミリ前後(大きくても43~44ミリくらいかなあ)が常識的となり、以前の36~38ミリに戻ることはほとんどないだろうと思います。着けている人にとってほどほどの存在感があって、自然に他の人の目にもとまるサイズですよね。
では、どうして「デカ厚」がトレンドになったのかと思い返すと、やはりパネライの影響力が大きかったのではないでしょうか。日本での本格デビューは確か1990年代後半だったと記憶しますが、この時のインパクトはすごくて、最初に注目したのはファッション界でした。時計の直径が45ミリで、ケースも厚い。小さな時計を見慣れてきた目にはとても斬新でオシャレに感じたのです。
ところが、この時計は衆知のようにイタリア海軍特殊潜航隊のために開発された軍用時計で、要するにダイバーズ・ウォッチですから、視認性や防水性のために「デカ厚」に「なってしまった」と考えられます。
実際に、今のモデルはデザインもフォルムも、開発当時のオリジナルとほとんど同じです。ジュネーブサロンの会場で現物を見たことがありますけど、第二次世界大戦中の兵隊さんが、こんなオシャレな時計を腕にしていたのかと驚かされました。大日本帝国の質素な軍用時計とは大違いで、イタリアという国のデザインセンスはちょっと破格といっていいでしょう。
そんなパネライが、昨年は「ラジオミール」で42ミリのレギュラーモデルを発表。新しいムーブメントを搭載した関係からか、ケース厚も薄くなったので、小型化トレンドは本物らしいとボクは確信したのです。確かに全体としてはそうした傾向なのですが、パネライだけは違って、今年の新作では47ミリのラージモデルがいくつかありました。
このブランドのマニアには、新開発の手巻き3日間パワーリザーブの「P.3000」ムーブメントがニュースでしょうが、「やっぱパネライは大きくなきゃ」といわんばかりのアンチ・トレンドな姿勢は、ボクにはむしろアッパレに感じました。
そして、な、何とケースにブロンズ合金を使用した47ミリの「ルミノール・サブマーシブル」が登場したのです。時計のケースは一般的にステンレススチールが普通で、チタンもありますよね。高級になるとゴールドやプラチナ、それにタンタルやらのレアメタルが流行したこともあります。セラミックも最近では珍しくありません。
けれども、ブロンズ=銅の合金というのは、ボクは寡聞ながら初めてです。
銅であるなら表面の酸化は避けられないはずですけど、パネライでは、その経年変化による「味わい」を逆に評価したそうです。そうした変化は、使い方や生活環境や職業によって異なるため、次第に自分だけの「1点もの」になっていく。ファッションでもこれを「エイジング」として一つの手法になっているそうですが、要するにピカピカで新しいものだけがいいわけではないんだよと。人間も同じで、年を取ることは単なる老化じゃないんだぜ、と。このあたり、中高年のボクは特に周りの若い女性の皆様に向けて強調しておきたいですね。
いずれにしても、このブランドはタダ者ではないなと改めて感じさせられました。
当初は「デカ厚」のファッション性で爆発的に大ヒットさせ、次の段階は自社製オリジナル・ムーブメントの開発を積極化。今では複雑機構だって搭載するようになり、「マニュファクチュール」へと進化してきました。
さらに、今年は「銅合金」のデカ厚時計です。
手首の細いボクにはちょっと無理なボリュームとサイズですけどね。
けれども、こういう発想ってスゴいなあ。
実は日本の家づくりも「柿渋」など、年を経て熟成することを前提とした手法があります。こういう伝統を忘れちゃいけないんだと自戒いたしました。
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