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2011年7月13日 (水)

「珍品堂モノ語り」(習作2)白い貝殻

 東京・山手線内側の都心でも、何かの事情で開発から取り残されてしまった場所がいくつかある。渋谷の隣駅の恵比寿にも、昭和な感じの木造2階建てアパートや廃屋が軒を連ねる一画があり、その中に沈み込んだかのような目立たない店が、珍品堂だ。

 板の切れ端にぞんざいに書かれた店名の横には、小さく「売ります、買います」とある。

 初夏の暑い日に、ダークグレーのスーツを着て、大きなカバンを持った若者が、珍品堂の前で佇んでいた。流れ出る汗を、しきりにハンカチで拭いている。

「遠慮せず、入ったらどうかな」と、ふいに店主が奥から表れて彼に言った。

「いえ、特に買い物の予定もないので」

「果たして、そうかな」と店主は呟いて背中を向けた。

 若者は自然に、その店主の後を追う格好になって中に入った。珍品堂の玄関はガラス戸なのだが、いつも開けっ放しになっているのだ。

「まだ就活中なんです」と彼は恥ずかしそうに言った。

「スーツを着慣れていないから分かったよ。それにネクタイの結び目をいじるのも、慣れない証拠だ」

「だからかなあ……」

「みんな一緒なのだから、それが理由で落ちたわけではあるまい」

「でも、内定を決めた奴はみんなちゃんとしているみたいなんです」

「くだらん」

「僕も早く決めないと、大変なことになっちゃいますから」

「まあいい。店に入ったのだから、忘れなさい、そんなことは」

 若者は店内をまず目だけ動かして見た。それからゆっくりと首を回した。

「ヘンな店ですねえ」

「余計なお世話だ」

「コンセプト、っていうんですか、商品構成がバラバラで統一感がないですよね」

「そういうことはズケズケ言えるんだな」

「経営学部なので……、すいません」

「まあ、いいよ。好きなだけ見てくれ」

 しばらくウロウロしていると、若者はふと白い貝殻を目にして、手に取った。

「ふーむ。それが呼んだのか」と、店主はいわくを語り始めた。

 ある地方の有名進学高校で、その事件は起きた。女子生徒が2年生の終わりに失踪してしまったのだ。担任の先生は、理由を知っていた。それ以前に、親が突然に「来年度に転校させる」と通告してきたからだ。いなくなったのは、その女子だけでない。もう1人、ある男子生徒も消息が分からなくなっていた。

 女子生徒の親は地域の素封家で、手広く事業をやっていた。どうやら彼女は、その男子生徒と恋仲になったらしいのだが、彼の親父は飲んだくれで無職。母親の仕事で何とか生計を立てている家庭だった。それでは釣り合わないということで、以前から注意はしていたらしい。ところが、若い男女は止められれば、それに絶対に逆らう。ロミオとジュリエットですな。

 そんなことの繰り返しの中で、「いっそのこと」と駆け落ちすることにしたらしい。

 今では、そんなに頑固で厳しい親は絶滅寸前。高校生も昔よりずっと賢くなってきたので、駆け落ちなどという、どう考えても割に合わない、ハイリスクな選択などしないだろうが、昔はそういうことが実際にあったのだ。

 もちろん想像の通り、こうした若い純愛の末路は悲惨である。17歳で何とか東京にやってきても、高校中退の身元不明では、まともな仕事には就けない。男は何とかツテを探して、短期の派遣仕事を繰り返した。保証人がいないので、アパートも借りられず、都会を漂流するように暮らすことになった。

 それでも彼女は幸せだった。好きな男子と一緒にいられるのだから。彼もまた、酒乱の親父と気の弱い母から逃げられたことに解放感を得ていた。もう帰るつもりなどない。何とかして、この都会を生き抜いて、彼女を幸せにしてやるのだ。

 それから1年もすると、彼はある暴力団の下部組織で使い走りをしていた。彼女は年齢を隠して新宿・歌舞伎町のクラブでホステスになっていた。彼は自分の将来を描くことができず、彼女も酔客のしつこい口説きに閉口するようになる。それまでまったくなかった口喧嘩を、落ち着くに連れて頻繁にするようになった。彼は彼女の浮気を疑い、彼女は彼への失望を深めていった。

 そして、しばらくすると、彼女は置き手紙をして粗末な安アパートを後にした。その手紙の上にあったのが、白い貝殻だ。彼と彼女が最も幸福だった頃に、手をつないで歩いた海岸に落ちていた。

 彼女は実家に連絡して、「これから帰る」と短く伝えてから列車に乗った。その頬に一筋の涙の跡があった。

 だが、例によって、話はこれで終わりではない。

 それからおよそ10年の歳月が経過した。

 東映の実録ヤクザ路線なら、彼はヒットマンとなって抗争に参加。敵の組長を拳銃で射殺して、自首のために出頭する途中で、偶然に彼女と出会って貝殻をそっと渡すなんて場面になるだろう。

 ところが、彼が末端で手伝っていた組織の組長はなかなかの人物で、暴対法によってシノギがどんどん厳しくなることを知っていた。「お前は○○高校だったろう。もともと頭はいいんだから、こんなことをやっていてはいかん」と、旧知の政治家の書生にしてしまったのである。

 それから彼は勉強して大学入学資格検定(現在は高等学校卒業程度認定試験)に合格。その後、大学を卒業して、その政治家の秘書になった。

 一方、彼女は親が決めた、つまらん男と結婚した。無断で家出して帰った以上は、もう親に逆らうことはできない。だが、財産があることだけが取り柄の男で、すぐに彼女に飽きてしまうと、ほぼ公然と浮気を繰り返す。政略結婚なんて、そんなものです。かくて、彼女の親も辛抱できなくなり、離婚させてしまった。

 その頃に、彼が師事した政治家は心筋梗塞で突然に亡くなり、跡を継いで立候補することになった。慌ただしく周りは準備を進めているが、彼は今ひとつ乗り気になれない。彼は彼なりに、彼女の消息を調べていたのだ。

「今まで本当にお世話になりましたが、どうしてもやらなければならないことが残っています。3日間だけ、僕を自由にさせてください」

 そんな手紙を残して、彼は生まれ故郷に戻った。そして、再び彼女に会って、残された白い貝殻をもう一度手渡したのである。

 リクルートファッションの若者は、この話を聞いて「随分と運のいい人たちですね」と店主に言った。

「人生にレールは1本と決められているわけではない。これからいくつも違ったチャンスがやってくる。だがな、諦めたら、それで終わりなんだ」

「理屈はそうでも、社会の入口で失敗すると、非正規で一生を終えるなんてことになっちゃいますよ」

「そういう姿勢だから落ちる。今の会社にぶら下がりやしがみつきを入れる余裕はないはずだ。だから、会社なんてのは、入れてもらうのでなく、オレが入ってやるという気構えでなければ、評価されないぞ」

「そうかなあ」

「さあ、これを買え」と店主は、白い貝殻を押し付けた。

「押し売りみたいですね。でも、話を聞いていると縁起は良さそうだな。いくらですか?」

「10万円だ」

 若者は驚いて目を見開いた。

「ちょっと、あまりに高いですよ。ただの貝殻じゃないですか」

「ただし、ある時払いの催促なし。お前が払いたくなったら、この店に持ってこい」

 果たして、この若者がうまく就職できたのかは分からない。ただ、採用面接には、その白い貝殻を握りしめて臨んだという。

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