リーダーの孤独
東日本大震災ならびに福島原発事故の処理があまりにも後手後手だったせいで、近頃とみに「リーダーシップ論」が再燃している気がします。
逆に、強いリーダーを待望する機運というのは、独裁者を生み出すのではないかという意見もあります。実際に、ナチス台頭の頃の記録映画を見ると、ヒトラーは圧倒的な数の国民に歓呼の声で迎えられたことがよく分かりますから。
それはともかくとして、リーダーシップを「方法論」として捉えると、重要なことを見逃してしまう気がしてなりません。
たとえば、トンネルの中のY字路で、どちらに行こうかと迷っている50人を想像してみてください。どちらかは出口かもしれないし、どっちに行っても残忍な敵か、回避不可能な危険に遭遇するかもしれないとします。
選択肢は、右に進むか、左に進むか、あるいは留まるかの3つです。
みんなは決心がつかないでウロウロしています。いろいろな意見や声が上がる状況で、たまたま、あなたがリーダーに選ばれたとしたらどうしますか?
あれこれ考えて右に、いや左に。仮に留まったとしても、それが結果として大成功でない限りは、50人の誰かから必ず文句が出てくるでしょう。もし失敗ならば、口を極めて罵られるくらいは覚悟したほうがいい。
どっちが正解かという問題ではなくて、リーダーというのは決して割がいい仕事ではないということを言いたいわけです。むしろ、リーダーから一歩下がったナンバー2のほうが、風あたりが少なくて、はるかにリスクが少ない。そう考えている人がほとんどではないでしょうか。
つまり、ですね。率直に言えば、リーダーシップは他の人のトクにはなっても、本人にはリスクにほかならないのです。
これは会社も同じで、トップである社長の気持ちは、社内の誰にも分からないと思います。職制の上では、社長に指示や命令できる人は社内にいません。その意味では最高権力者であっても、かわりに会社と従業者の責任を一身に引き受けなければならない。
映画『男はつらいよ』に出てくる零細印刷業のタコ社長も、規模は違いますが構造的には同じことです。景気が悪ければ、つなぎ融資のために金融機関を奔走しなければならない。幸いにカネを借りられても、零細や中小では社長の個人保証を求められるので、会社や従業員のためであっても、自宅を抵当に入れたりして借金をしなければならないのです。
それでも従業者からは「月給を毎月支払うのは経営者の義務だ」エイエイオーッなんて言われることがあります。
某ティッシュ会社の御曹子のように、その権力をカジノ方面に使える人も僅かながらいるでしょうが、零細・中小企業は多かれ少なかれ、この種の苦労を経験しているはずです。こうした責任の重さを、社長以外の人たちは想像することができるでしょうか。
いかなる本を読んでも、大学でどんな授業を受けても、これだけは結婚と同じで、やってみないと分かるものではありません。その意味では、やはり社長なんか引き受けるものじゃない。ましてや起業なんてハイリスクだからとんでもない、ただの会社員のほうがよっぽど楽じゃないかと。
けれども、誰かが社長を引き受けなきゃ会社はバラバラになります。新しい会社が勃興しなければ、社会も経済も新陳代謝しません。グループがうまく行動して成果を出すためには必ずリーダーが必要なのです。
ボクの世代は親から「とにかく他人様に迷惑をかけないように生きなさい」と言われて育った人が多いはずです。しかし、経営者やリーダーになれば「ひょっとしたら他人様に大迷惑をかけるかもしれない」決断を下す時だってきます。
だったら民主主義で行こう、みんなの意見を集約してさ、と野田首相の方法論で行きたくなりますが、みんなの意見が正しいとも限らないのです。
明るくて、美味しい匂いがする方向に行ったら、悪魔が口を開けて待っていたなんてことは世の中に結構あります。みんなの意見が正しいのであれば、ネズミ講その他の詐欺に多数の人がひっかかるわけがない。
だから、みんなからいかに反対されても、そのみんなを救うために、敢えて独断専行しなければならない時もあるわけです。それで抹殺されて、20年くらい後に「本当はいい人だったよな」と、見つかった恋文なんかをもとに回顧されたりしてね。
ほらね、社長も含めてリーダーなんて滅茶苦茶に割が合わない仕事ではありませんか。少しばかり収入が高くても、銀座のバーで豪遊したり、あんなことやこんなことができても、こういう責任から逃れることはできないのです。
それでも、この孤独で辛い職務を、誰かが引受けなきゃいけない。
そんな時に、率先して手を挙げる人が少しでも増えるようにすることが、リーダー教育の最初の一歩なんだろうなとボクは思っているのです。
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