富裕層の特質
もうとっくになくなりましたが(休刊or廃刊)、『セブンシーズ』という富裕層向け雑誌に記事を書いていたことがあります。歴史を遡れば、実はこの雑誌の創刊時にも少しかかわったことがあるのですが、ボク個人としては、読者である富裕層の実体が感覚的になかなか掴めなくて、「これでいいのかなあ」と悩むことがしばしばありました。
日本では敗戦を挟んでいるので、先祖代々からお金持ちという人たちは限られています。さらに相続税率も高いので、3代続けば資産はゼロなんてこともいわれてきました。かの鳩山兄弟なんて超例外的で、ヨーロッパやアメリカの富豪とは全然違うということは、知識としてまず理解できます。
だから、人間としての考え方に極端な違いがあるはずはなく、要するに資産規模がボクより大きいだけじゃないか、と思ったこともありますが、それでも億単位のお金があるなら生活も意識も同じであるはずがありません。
そこのところが、貧乏人であるボクには実感として理解できないために、こうした記事でいいのかという疑問が消えることはなかったのです。
でも、富裕層に高額商品を販売する実際の現場は、さすがにボクのようなライターとは違うんですね。実体も実感もちゃんとあるわけです。ある人のブログで「なるほどなあ」と感心させられました。
結論から先に言えば、「お金持ちは人に付く」というのです。店でも会社でもなく、人に付くということがポイントです。考えてみれば当然のことで、大きな資産を持つ人ほどそれをアテにして近づく人は絶えないでしょう。猜疑心とまではいかないにしても、人を安易に信用することはできません。財産を失ってしまう可能性があるからです。
ボクたち普通人の場合は、小さなお金を大きくしようとして、目先の利益に投資して失敗なんてことはよくある話でも、富裕層は十分な資産がすでにあるので、維持・保全のほうが大きな課題になってきます。
けれども、せっかくお金があるのだから、預金通帳や不動産の証書という数字だけでなく、それを実際に使ってクルマなら超高級なドイツ車に乗りたいだろうし、別荘だってあってもいい。こうした消費意欲を積極的に持っていただかないと、それこそお金が社会に還流しなくなります。
そうした富裕層による消費の接点で活躍してきた人のブログだったのです。「お金持ちは人に付く」というのは、言い換えれば「お金持ちは人を見る」ということです。もっと言い換えれば、自分に決して損をさせない人かどうか、要するに「信用」ということになるでしょう。
逆に、そういう信頼や信用に足る人がいなければ、どんなに大きな構えの老舗店舗でも、彼らにはたちまち魅力的ではなくなってしまうわけです。その人を信用できれば、仮に別の店や会社に転職しても、顧客としての関係は継続できることになります。
同じことを、ある高級時計店の方にも聞いたことがあります。
彼によれば、「お客様と時計の話はあまりしないなあ」というのです。時計店なのに、むしろ世間話がほとんどだそうです。察するところ、そうした会話を通して、お金持ちはモノではなく人を判断しているのかもしれません。
似たような話はまだあります。
某高級ブランドの超高価な時計で日本有数の販売実績を持つ時計店があるのですが、店舗だけを見たら、そんな話はとても信じられないでしょう。商店街に立地するまったく普通の店にもかかわらず、少なからぬ富裕層を固定客にしているのです。おそらく百貨店の外商スタイルで客先を訪問しているはずですが、これもまた店主との信頼関係と考えれば、不思議は一気に氷解します。
やはり、店構えや組織でなく「お金持ちは人に付く」わけですね。
リーマンショックの直前に、こうした富裕層向けのビジネスが注目されたことがあります。もちろん現在でも富裕層をターゲットとしたエクスクルーシヴなビジネスは様々に存続しているはずですが、このような視点がなければ、発展は難しいのではないでしょうか。つまり、顧客をターゲットとして見ている限りは、信頼されることはないでしょう。
まったくあたりまえのことですけど、「信用」や「誠意」がビジネスの基本であって、特に富裕層の場合は、その要求レベルがボクたちよりもはるかに高いということですね。ああ、そういう記事を書けば良かったんだぁと、やっと今さらながら実感できたのです。
こうなると、一般向けで成功してきた売り込みやセールスのスキルは、彼らには逆効果になりかねないということになります。
周到な広告やマーケティング・テクニックに子供の頃から浸ってきた若い層にも、これは共通しているような気がしますけどね。
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