喜怒哀楽
4年前のブログにもちょっと書きましたが、ボクは人間の感情を憎んできました。感情を憎む感情というのは、蛇が自分の尻尾を呑み込もうとするみたいで、なかなかの屈折ぶりではありますが、とにかく気持ちを持てあましていたわけですな。こんなのは別にボクに限った話ではなく、「感情的」という言葉が肯定的に使われることなんてないではありませんか。
このことから「人間的」という言葉も大っ嫌いで、って、これまた感情的な言い方になるから面白いのですが、この2つの言葉を完全に抹殺できた社会こそがユートピアではないかと考えていました。
だから、これまでにやったアルバイトで最も快適だったのは、データセンターのキーパンチャーでした。大型コンピュータに読み取らせるためのデータづくりで、販売伝票の記号と数字をカードに穿孔するのが仕事ですから、「人間的」にも「感情的」にもなりようがありません。朝から昼までタイプライターみたいな卓上機をパチパチ、メシを食ってちょっと休んでまたパチパチ。無駄話をする余裕もなく、これで時給ナンボというのは気持ち良かったなぁ。しかも、成果が極めて分かりやすい。最初は1分間で10枚程度なら、翌日は12枚、その翌日は15枚という感じでどんどん上達していくことが明確に理解できます。それによって時給も上がるのですが、数字が根拠ですから「あいつが何で」という嫉妬やねたみも生まれようがないわけですね。
人によっては「機械のような仕事だ」と否定的に形容するでしょうが、まさにその理由からボクはこの仕事が好きだったのです。
しかし、当然のことながら、人間はどう頑張っても機械にはなれません。原因不明で調子が良くないこともあります。だからこそ機械を発明したのですから、機械が完全に人間のようになっては困るんだよな。もし人間がもっと必要なら、人間同士がああしてこうすりゃそれほどの困難なく再生産できます。ちなみに、英語では子どもを作ることを容赦なくReproductionと表現するので驚いたことがあります。
でね、人工知能がどんどん発達していく過程で、人間の良さとはいったい何かとなるわけです。何もかもが機械に代替可能になっていく中で、パンドラの箱の底に残るのは、「希望」なんぞでは決してなく、ボクは「感情」ではないかと思うのです。情動とかモチベーションとも言われるように、神経系に効くホルモンというかビタミンというか、覚醒剤やマリファナ的な効能(経験ないのであくまで想像)も実はあるじゃないですか。こうした「感情」を前向きに評価しないでどうするのって社会に、これからなっていくと思うんですよね。
同じ機能で同じ価格なら、美しい製品が汚い製品よりも売れるように、人間は快を感じるほうに動くようになっています。前述したReproductionという行為も、快を感じるから人間も動物も存続してきました。そもそも感情は極めて大切な要素として本能に組み込まれているわけです。
それを嫌ったり憎んでいては、それこそ高度に発達した機械に負けてしまいますよね。とするなら、この感情の「良さ」を積極的に認めていくことが必要ではないかと。具体的には、喜怒哀楽はいいぞぉ、感情的って何て素敵なんだぁ、と考えるようにすればいい。
ボクの現在の仕事も、実は極めて感情的なことがベースにあります。事実を伝えることがノンフィクションのライターの基本的な任務ですが、事実だけなら新聞やネットのニュースを見ればいい。大切なのは、その事実をどう理解・解釈するか、です。ここで道は2つに分かれて、「人間も社会も何てバカでイヤな存在だ」という否定的な方向と、「こう考えると参考になって役立つから気持ち良いじゃんか」という肯定的な方向があります。前者をどんどん深めていくのが小説で、後者がボクの仕事ですが、最後は結局同じところに行き着くことになります。その最後についてはいつかお話するとして、こんなのは完全に感情に結びついた評価・判断であり、いつの間にかボクは自分が最も嫌っていたものと密接に付き合う仕事をやっていたことになるのです。
どうやっても逃げられないことなら、ネガティブな感情も前向きに使い倒すほかありません。高度な人工知能を備えたロボットに「どうだ、お前はこんなことを感じられるか」と問いかけることが、奴らに勝つ秘訣になっていくでしょう。
だからこそボクは、このブログでは常に前向きな感情で考え、いつも提案を忘れないことを自分に課しています。ネガティブな感情もコインの裏表のようにセットであることは承知の上で言いますが、愚痴や批判や悪口や悲嘆だけなら、ロボットから「やっぱ人間だもの」と嘲笑されるぜ、と今から思っているのです。
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