家具の話(後)
ついエラソーに疑問を投げかけて、同じテーマを2回に分けてしまいましたが、大した私見を披露するわけではないので悪しからず。
取りあえず結論を先に紹介しておくと、父と娘の考え方や方向性がこれほど対照的で、かつビジネスとして折り合いをつけることが不可能であるなら、いっそスピンアウトすればいいのにとボクなんかは単純に考えるのです。日本語で言えば「分社起業」ということになるのかな。
大塚家具のブランドイメージや経営資産をそのまま継承して発展させようとするなら、経営理念は一本化せざるを得ません。前回も指摘したように、高級路線と大衆路線の同居は現実的に困難だからです。
それぞれメリットとデメリットがあるので、改めて指摘しておくと、会長パパが志向する高級路線の場合、顧客の絶対数は少ないものの、景気の影響を受けにくいんですよね。高額商品になればなるほどフローでなくストック型(資産型)リッチの顧客が増加すると考えられます。彼らは給料に依存していないので、物価が上がっても、インフレになっても、不況で賃金が思いきりダウンしたところで、消費意欲に深刻な影響が出にくいわけです。
他方、娘さんが目指していると推定される大衆路線は、それとは逆にマスが相手なので、客単価は低くても商品の販売量をどんどん拡大できる反面で、景気動向の直撃を受けやすいというデメリットがあります。
つまり、どちらの路線も正解であって、決して不正解ではないのです。強いて言えば、景気がいい時には大衆路線で顧客と販売額を拡大。不況期にはカネ持ちに絞った高額商品販売で凌ぐというのが理想的ですが、両者の顧客層は互いに相容れないものがあるので、そんなにうまくいくならみんながとっくにやっているはずです。
だったら、スジとしてはやはり娘さんが経営資源や店舗の一部を分けてもらって、外に飛び出て分社起業することが最も現実的な解決策ではないかと。でもって、パパのほうはもっと過激に高級化を推進すれば、娘さんと一緒に家具マーケットで大きなシェアを握る可能性も生まれてきます。
超高級家具のオークションやリサイクル市場の拡大ってことも考えられますよね。高級機械式時計と同様に、メンテナンスや再生などで職人的な技能が必要になると考えられるので、それこそ大塚家具の人的資産が活かせるような気がします。
実際に、客単価と客層がそれぞれ異なる居酒屋やレストラン・チェーンを展開している外食産業は珍しくないほか、洗剤やシャンプーなどで複数のブランドを持ち、個別にまったく異なるマーケティングやイメージ戦略を行っている総合的な生活企業もあるじゃないですか。それと同じことをやればいいわけです。
ただ、大塚家具の場合はもはやちょっとばかり見せ方を変えても市場にはモロバレなので、いっそのこと別会社を立ち上げるほかないだろうと思うわけです。ホールディング・カンパニーを設立して、資本や人材などの経営資源を子会社として再編成することも考えられるじゃないですか。
にもかかわらず、テレビの記者会見では管理職とおぼしきオジサンたちが会長パパの背後にくっついていたりしてね。むしろボクは会社よりあの人たちの行く末のほうが心配になります。いくらトップ同士の親子喧嘩とはいえ、表沙汰にせず内部できっちり解決できないというのは、幹部社員としてどうなんでしょうか。
ある老舗飲料会社の若社長から「売上げを妨げるのは、時代性や市場動向ではなく社内の軋轢なのです」と聞いたことがありますが、こうした問題に企業規模はまったく関係ないようですね。弾丸は、時に背後から跳んでくるのです。
というわけで、ボクにはどちらも今の会社に必死でぶら下がろうとする「蜘蛛の糸」のように見えて仕方ありません。それしか方法がないとお互いに決め込むことから、思考停止に伴う痴話喧嘩が始まるということが教訓といえばそうなのかな。
でもね、もしかして、これが株価や知名度を上げるために仕組まれた壮大な演技だとすれば、それはそれで凄いよなぁと感心するんですけどね。
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