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2017年3月15日 (水)

『アカシアの雨がやむとき』(3月14日ブログ修正版)

 

 すいません、昨日の続きですが、西田佐知子の『アカシアの雨がやむとき』はボクの完全な誤読だったようです。これまでの流れから、てっきり失恋の歌かと思い込んで解釈してしまったのですが、これは間違っていました。ああお恥ずかしい。そんなわけで、昨日のブログは削除させていだきました。

 

 というのも、同名の映画が日活製作で1963年に公開されており、失恋ではなく、悲恋が描かれていたらしいのであります。つまり、すれ違いやら不幸の連続で、人生に絶望しつつ、「あの人」を想うという内容なんですよね。だからこそ当時はデモで女子大生が亡くなった「60年安保闘争」が背景にあると言われていたようです。恋愛がテーマであることは確かでも、「捨てられたら私は死んじゃうわ」なんて内容ではありません。そりゃそうです、そんな歌がヒットしてレコード大賞特別賞が授与されるはずがないですよね。

 

 そんなわけで、気を取り直してもう一度再構成したブログをお届けします。

 

 決して美声ではありませんが、これほど大人の雰囲気を感じさせる歌声はほかにちょっと聴いたことがありません。西田佐知子。今では近所のオバサンみたいな名前に思えますが、1960年代に一世を風靡した歌手です。

 

 当時は国民こぞって視聴していたNHK紅白歌合戦に61年から10回連続で出場したといえば、人気のほどが分かると思います。

 ところが声の質は、しばしば比喩にされるシルクのような滑らかさとは真逆で、貴金属の表面処理でいうならヘアライン仕上げかな。ただし、筋が整った、というと矛盾を感じるかもしれませんが、心地良いかすれ感を伴った個性的な声であり、それが綺麗に鼻を抜けていき、高音部の伸びも素晴らしいのです。

 ごく簡単に表現すれば、色っぽい鼻声なのですが、それに頼った過度な感情移入をしないクールな歌い方も特長。それらが相まって、エロス寸前のエレガントな艶っぽさを感じさせるのです。それに比べて近年は若い女の子が集まった黄色い声のユニゾンばっかり。楽曲も直線的で実につまらんというのは、オッサンの繰り言でしょうか。というわけで、西田佐知子が近頃のボクのマイブームとなっております。

 

 そんな彼女の代表作は、1962年にレコード大賞特別賞を授与された『アカシアの雨がやむとき』。20歳を過ぎたばかりの若い女性が、こんな歌を歌ってヒットしました(作詞:水木かおる、作曲:藤原秀行)。

 

アカシアの雨にうたれて

このまま死んでしまいたい

夜が明ける 日がのぼる

朝の光の その中で

冷たくなった私を見つけて

あの人は 

涙を流してくれるでしょうか

 

 私が死んだら、という状況を想定した悲恋を表現しているらしいので、歌い方次第で重量級の演歌になりかねませんが、彼女はそうなる寸前でサラリと切り上げています。だからこそ歌を聴く限りでは、この詞のハードな内容に気づきにくいんですよね。かといって情感がないわけでは決してないところが、彼女の真骨頂といえそうです。エロス寸前で、濃厚な演歌になる寸前。この良い意味での寸止め感がもたらす情緒が、彼女独特の都会的な雰囲気を醸成しており、ボクが好きになった理由なのかな。

 でもって、アカシアの雨がやんだら、果たしてどうなるか。3番の歌詞はこうなっています。

 

アカシアの雨がやむとき

青空さして鳩が飛ぶ

むらさきの はねのいろ

それはベンチの片隅で

冷たくなった私の脱けがら

あのひとを

探して遙かに 飛び立つ影よ

 

 公園だろうと思われますが、1番の歌詞で予告したように「ベンチの片隅で」亡くなっているわけですから、うーむ、やっぱり悲惨な歌ではありませんか。メロディばかりを覚えていて、実はこんなにものすごい歌詞だとはまるで知りませんでした。もしも西田佐知子でなければ、とてもじゃないけどヒットしなかったんじゃないかな。だからこそ代表作になり得たのでしょう。有名な歌手は必ずそうした奇跡的な出会いがあるんですよね。

 

 こんな内容の歌ばかりでなく、『赤坂の夜は更けて』(1965年、作詞・作曲:鈴木道明)という典型的な別離を描いたラヴソングもあります。それでも彼女が歌うと、やはりどこかふっきれたオシャレな感じに聞こえるんですよね。

 

今ごろ どうして 

いるのかしら

せつない想いに ゆれる灯かげ

むなしい未練と知りながら

恋しい人の名を ささやけば

逢いたい気持ちはつのるばかり

赤坂の夜は 更けゆく

 

 ただし、前回のブログ『涙のかわくまで』でも指摘しましたが、惚れて惚れて惚れ抜いた恋を失ったら、別れをいつまでも引きずるのではなく、さっさと気持ちを整理して毅然として前を向くというのが、彼女の歌のキーモチーフなのかもしれません。ご本人も気に入っていたという『女の意地』(1965年、作詞・作曲:鈴木道明)が、そうした心境をシンボリックに表現しているように思います。

 

こんなに別れが 苦しいものなら

二度と恋など したくはないわ

忘れられない あの人だけど

別れにゃならない

女の意地なの

 

二度と逢うまい 別れた人に

逢えば未練の なみだをさそう

夜風つためく まぶたにしみて

女心ははかなく 哀しい

 

 「別れにゃならない 女の意地なの」だもんね。こういう問題になると、女より男のほうがどう考えてもヘタレで未練がましい。つまり、彼女が活躍した60年代あたりから女性の地位が向上するとともに、男からの独立心も次第に高まってきたといえそうです。

 そんな分かったふうな社会学なんかより、何度YouTubeを視聴しても、細面の美人で実に素敵な歌声だなぁと感心させられます。そんな彼女がね、なななな何と、あの司会者の奥様というのですからコノヤローじゃないですか。おかげで70年代から活動をセーブして、80年代から専業主婦になったとウィキペディアで紹介されております。

 

 幸せだったらいいけどよぉ、と、つい時空を超えた嫉妬に走ってしまうほど魅力的な歌手なので、ぜひYouTubeで聴いてみてください。

 

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