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2017年3月21日 (火)

『初めての街で』

 

 観てきましたよ、映画『ラ・ラ・ランド』。ゴールデン・グローブやアカデミーで沢山のタイトルを受賞した話題作なので、ミュージカル評論家(自称)としてはレンタルDVDで済ますわけにはいかんなぁと、さっそく六本木のTOHOシネマズまで行きました。その感想ですが、明日から恒例のスイス出張となり、帰国予定の3月28日までは基本的にブログをお休みさせていたただくので、翌29日の水曜日にはまとめようと思っております。

 

 さて、先週にお約束した、目下のマイブーム爆進中の西田佐知子イチオシ曲についてであります。

 何度聴いても実にまったく素晴らしい歌手であり、「不世出」と形容しても決して大げさではないでしょう。特に低音から高音への伸びが群を抜いており、わずかな淀みすらなく、鼻を抜けきっていく歌声が実に色っぽいのです。声量も豊かな人ですが、それを敢えてためこんだ甘く可愛い囁きで始まる、彼女には珍しい歌から紹介しておこうかな。

 1969年に発表された、『くれないホテル』(作詞:橋本淳、作曲:筒美京平)です。

 

あなた知ってる くれないホテル

傷を背負った 女がひとり

そっとブルース 口ずさみ

深紅のベッドに涙をこぼす

ああ くれない くれない

誰が名付けた くれないホテル

 

 長くなるので詳しく解釈しませんが、以前のブログで「寸止め感」として触れた西田佐知子特有の微妙な距離感がこの歌にはありません。何かの事情でちょっと離れていた恋人が、再び隣に戻ってきたような親近感があるのです。「あーなーた、知ってる?」という問いかけから始まるので当然といえば当然の歌い方ですが、まるで彼女が耳もとで語りかけてくるような雰囲気になっています。当時はなぜかヒットしなかったみたいですが、ボクにとってはベスト5に入るほど好きな曲です。

 

 やはり1969年に発売された、同じく橋本淳、筒美京平コンビによる『星のナイトクラブ』も、そこはかとない哀愁の中で人生の「甘苦さ」みたいなものが表現されています。

 

星を飾った クラブのように

話し上手な女がひとり

夜の銀座に 夜の銀座に

いるという

 

 どうですか、このフレーズだけで銀座のクラブに出かけたくなるじゃないですか。ボクはほとんど経験ありませんが、虚実入り混じったホステスとの恋の駆け引きを思わせる内容になっています。中でもサビのリフレインが秀逸で、「あまくて あまくて とてもせつなぁーい」と伸び上がっていくところが西田節全開でありまして、胸が熱くなるほどの情感に満ちています。

 

 ただ、ごく一般的に彼女を代表する曲といえば、これまで紹介してきた、

『アカシアの雨がやむとき』(1960年、作詞:水木かおる、作曲:藤原秀行)

『赤坂の夜は更けて』(1965年、作詞・作曲;鈴木道明)

 それに「泣いた女がバカなのか だました男が悪いのか」というフレーズで知られる、

『東京ブルース』(1964年、作詞:水木かおる、作曲:藤原秀行)

 ということになるでしょう。

 

 このうち『赤坂の夜は更けて』は他の歌手との競作でしたが、ジャズっぽい都会的な曲想がみごとにマッチングして、西田バージョンが最もヒットしたそうです。

 

うつろなる心に

たえずして

なみだぐみ ひそかに

酔う酒よ

 

 と、歌詞は文語調でも、彼女が歌うと、都会の夜の巷で恋人を想う女の切ない心情が心に響いてくるんですよね。銀座の次は赤坂、行こうかなぁ。

 ちなみに、石川さゆりもまったく同じアレンジでカヴァーしており、しっとり感たっぷりの表現力はさすが『天城越え』と感心しますが、西田盤と聴き比べてみると、声量が違うことに気づきます。肺活量といえば身も蓋もありませんが、それによる奥ゆきとタメ=余裕がね、やはり西田佐知子のほうがちょいと上手だなぁとボクは判断しました。

 

 ということで、ボクなりに、ああ堂々の西田佐知子ベスト1を選ぶとすれば、やっぱり『涙のかわくまで』(1967年、作詞:塚田茂、作曲:宮川泰)かな。さすがにアレンジは昔風でも、メロディラインとリズムが新しい。かつての演歌をひきずっている気配がまったくないので、この21世紀に聴いても新鮮に感じるのです。冗談抜きで、もう100回以上は聴いたでしょうか。それくらいクセになる魅力があると思います。

 

 しかしながら、ここで番外の特別賞としてイチオシでご紹介したかったのは、CMソングの『初めての街で』(作詞:永六輔、作曲:中村八大)です。この題名は知らなくても、「やぁっぱりぃ、おーれわぁあああ、きくまさぁむぅねぇ」という締めの「菊正宗」フレーズに聞き覚えのある人は多いんじゃないかな。

 

初めての街で

いつもの酒

これで

ひとりぼっちじゃない

 

初めての人と

いつもの酒

ちょっと

口説いてみたりする

 

 1975年からテレビなどで流れていたそうですから、彼女が35~36歳頃の歌です。悔しくてコメントする気にもなりませんが、例の2代目俳優の司会者と結婚したのは71年。確かに円熟したミセスの風情が感じられます。似たような出自の『ウィスキーが、お好きでしょ』(1990年、作詞:田口俊、作曲:杉真理)を石川さゆりが艶っぽく歌っていますが、あれをチーママとするなら、『初めての街で』の西田佐知子は若女将でしょうか。貫禄も色気もやさしさも人情も格別と言えば、石川さゆりファンに叱られるかな。

 

 時代が異なり、個人の趣味嗜好も様々なので比較しても仕方ありませんが、アレンジが上質なので、気品と華やかさがありながらも、心に暖かいものがじんわりと流れてくるのです。その人気から1979年に歌詞を一部変更したシングル盤が発売されています。

 ウィキペディアによれば、90年には別の歌手によるカヴァーバージョンが広告代理店から提案されたようですが、あっさりと見送られたそうです。そりゃそうでしょうよ。いくら引退して知名度が下がったとしても、この歌を彼女以上に歌える人なんているのでしょうか。2007年から菊正宗のラベルなどが一新されたことを契機として、このCMソングも復活。さらに2009年からジェロという歌手がカヴァーしているらしいのですが、個人的にはとても賛同できません。

 

初めての別れに

いつもの酒

またどこかで

逢おうじゃないか

 

 酒にまつわる人情をこんなにも懐深く歌えるのは西田佐知子しかないといって過言ではないと思うので、この楽曲は彼女だけの永久欠番にして欲しいなぁ。なんてことを書いているうちに、酒が無性に飲みたくなってきました。ヨーロッパに向かう機内で、この曲を聴きながら久々に良い酒を飲みたいな。

 

 ということで、1週間ほどブログをご無沙汰させていただきます。

 

 

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