孤独のショッピング
テレビドラマとしてもシリーズ化されましたが、『孤独のグルメ』という漫画がありました。原作は久住昌之、作画が谷口ジロー。1994年の『月刊PANJA』が初出らしいのですが、ボクは2008年に『SPA!』で復活した読み切りシリーズのほうを愛読していました。
中年のオッサンが1人でランチや晩飯を食べるという、実にまったく単純なストーリーであり、「グルメ」とタイトルされているものの、美味に極端なこだわりはなく、いわゆる3大珍味なんかも出てこなかったと記憶します。とにかく1人で街を歩き、1人で食べ物屋を探して、1人でメシを食いながら、心の中であーだこーだと「独白」する。仮にまずかったとしても、それをむしろ珍しい経験と解釈して、愛想良く「ごちそうさま」と言って勘定を払って立ち去る。
谷口ジローの細い線描による白っぽい画面と痩身の主人公は、そうした心地良い孤独感と絶妙にフィットしていたんですよね。夏の眩しい陽光で白と黒のハイコントラストになった街の光景と似ていて、様々な階調=グラデーションが消し飛んでいる。この透明感に優れた画質が、オッサンが1人でメシを食うという悲哀や貧乏くささを完全に脱色しており、ヘタすりゃオシャレに見えなくもない雰囲気がボクは好きでした。
であるなら、ですね。ぜひ「孤独のショッピング」という漫画かテレビドラマをやって欲しいなぁ。オリジナルは「独白」のおもしろさが魅力でもあったので、たとえば紳士服のバーゲンなんかに行って、うるさくつきまとうオバサンに要望を言いながら「この人のご亭主はどんな仕事をしているのかな。もしも現場仕事なら作業着だからサイズにこだわるなんてことはないだろう。それに比べて、オレたちはどうしてこんな窮屈な格好をしなきゃいけないのか」とかね。
百貨店や専門店、それにアウトレットまで、販売店だけでなく、ジャンルも広げられるので、いろいろ話は続けられるように思うんですけどね。そこにウンチクをちょっとばかり加味するのはもちろんだけど、中高年の寂しさが込められていることが必要になります。
カナダの精神分析学者が命名したらしいですけど、「ミッドライフ・クライシス」=「中年の危機」。そうした心理的な葛藤への共感こそが、『孤独のグルメ』が人気になった本質的な理由だったのかもしれません。であるならば、ボクにもちょっとは書けそうな気がするんだけどなぁ。
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