行動経済学
近所の和装古着屋さんがとうとう閉店しました。売り場が狭小かつ変形で、何度も入居・撤退を繰り返してきた縁起の良くない場所なのですが、この古着屋さんはうまく行かないだろうと最初から思っていました。
ブランドものの中古や古着はいいんですよ。実際に、渋谷あたりの店は買い入れや販売を問わず人が集まっています。和装の古着屋さんも、帯やら和服を驚くほどの安値で並べていたのですが、こちらは悪い言い方ですが閑古鳥状態。同じ古着や中古品なのに、どうしてこんなに違うのだろう、と不思議に思いませんか、
考えてみれば実に簡単なことで、和服は普通の人にとって特別な装いなんですよね。着付けが必要という面倒もさることながら、特別な時の特別な装いを古着で間に合わせることには抵抗があります。特別な時だからこそ、パリッとした新しい装いを身に付けたいと思うじゃないですか。成人式しか着ないような振り袖でも、娘のためならエイヤっと大金を費やす親は珍しくありません。借りるという方法もあるのですが、それだって古着という範疇ではないですよね。加えて詐欺まがいの大変な被害を与えた会社があるので、レンタルは下火になっているんじゃないかな。
それに対して、ブランドものは一般に普及しており、まだ収入が乏しいはずの若いお嬢さんでも、見慣れたロゴのバッグを常識的にぶら下げています。こんな状況であれば、見た目は大して変わりないんだから、高価な新品より中古のほうが安くてコスパに優れているという判断も納得できます。
つまり、人間は必ずしも経済的な合理性だけで購買行動するわけではないということを、この事例は如実に示しているのです。こうした人間心理を加味した経済学を「行動経済学」と呼びます。決して思いつきレベルの話ではなく、これを理論化したプリンストン大学のダニエル・カールマン教授はノーベル経済学賞を授与されています。ごく簡単に説明すれば、『行動経済学』(光文社新書、友野典男・著)のサブタイトルに掲げられている「経済は『感情』で動いている」ということです。あるいは同書の「はじめに」の中で語られる「勘定より感情」も的を射たシャレではないでしょうか。
ただ、こんなことは商売人の皆さんは体験的に熟知しております。安ければ売れるわけではないからこそ商売は難しい。その反面で、勘所を押さえれば必ず成功する。この勘所が、紛れもなく消費者の心理・感情ということなんですよね。それを見込み違いしたビジネスは絶対に失敗します。また、それをちゃんと理解していない分析は、いかに詳細であっても的外れなんですよね。
そんな教訓を、ボクは和装の古着屋さんの閉店で感じたのであります。
なお、明日から正月休みをいただくので、このブログもお休みさせていただきます。再開は1月6日(月曜日)の予定。それでは皆さま、良いお年をお迎えください。
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