クラウドファンディング
今から10年以上も前になるかな。クラウドファンディングという言葉が上陸したばかりの頃です。ボクはインターネットが草の根民主主義の実現につながると信じていたので、クラウドファンディングも投資の民主化を促すのではないかと大いなる期待を持っていました。
そんな頃に、ある超有名な経済学者にインタビューする機会があったので、その話題を振ってみたのです。当時はアメリカの投資・金融業がイケイケ&ドンドンの大活況であり、日本はそのはるか後ろで塵や埃を拝していました。ま、いつものことではありますけど。
クラウドはそんな状態を打開する新しい手段として認識されているのではないかと、ボクは希望を込めて思い込んでいました。ところが彼は、ひどくつまらなそうな顔で「フン」と鼻からひとつ息を吐き、「そのカネをどこに投資するんだね」と斜に構えて嘲笑したのです。「カネをいくら集めても有力な投資先がなきゃ仕方ないだろう」と、驚くほど冷淡な態度だったことを今でもありありと思い出します。
ところが、彼の予想に反してクラウドファンディングはじわじわと普及。今回の新型コロナ禍では、様々なカタチで飲食やサービス業などをサポートしているようです。たとえば倒産寸前のラーメン店がネットでクラウドを募集。目標を上回る資金を得たと報道されました。寄付ではなく、あくまでも投資ですから、リターンがなければいけません。そこで休業要請解除後に使える未来の飲食券を配布するなど、いろいろと工夫しているみたいですね。
従来の投資と異なるのは、そこに利回りなどを超えた人情や精神性が絡んでいることです。その店のラーメンが大好きだとか、店主の人柄に惚れるとか、要するにカネ勘定だけでの投資ではないんですよね。オリジナルの時計を限定数だけ製作するというクラウドファンディングもありますが、こちらもマニアックな趣味性が大前提となっています。つまり、儲けることだけが目的で投資するわけではないんですよね。
そうしたブラスアルファの付加価値のやりとりが、実はクラウドファンディングの本質といっていい。アメリカ発祥のクールで強欲な経済学や財政学に染まっていた高名な学者様には、まるで予測できない要素だったのではないでしょうか。しかしながら、自慢じゃありませんが、理想主義者のボクはちゃんと今のような事態を感知しておりました。
自慢ではないと言いながらきっちり自慢しているのが恥ずかしいのですが、やはり新しい物事は、教室や図書館などの中ではなく、あちこちの現場で起きているのです。街に出て、他者とかかわらなければ、大切なサインをみすみす見逃してしまう。だからボクは今でも現役のライターであり続けたいと思っているのです。
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