マイブーム(後)バナナ
そんなトマト、いやバナナ。古くさいギャグでどーもすいません。ボクにとってバナナという言葉を使うのはこれがほぼ唯一であり、長きにわたって大嫌いな果物でした。
小学校4年の頃に急性腎臓炎となり、医師の指示で夏休みに加えて1か月ほど通学しないで自宅療養したことがあります。塩分が腎臓に負担を与えるというので、食べ物は無塩や減塩の味気ないものばかり。中でも母親が頻繁に買ってきたのがバナナなんですよね。「バナナの叩き売り」という言葉があるように、安くてポピュラーな果物でしたから、家計的に助かったんじゃないかな。病気療養には穏やかで深い甘味のメロンがよく似合うと思うんだけど、価格がとびきりに高くて、とてもじゃないけど庶民の食べ物ではありませんでした。そのかわりに「身体にいいから」と信じた母親のおかげで、ほとんど毎日がバナナの日。2か月の療養期間に一生分を食べ尽くしたんじゃないかな。
それ以来、バナナは病気の思い出とセットでウマシカ、じゃなくてトラウマとなり、何よりも嫌いな果物となったのです。そもそも果物のくせに爽やかな雰囲気がないですよね。モチモチした食感に加えて、甘味もどんよりと鈍い。それでもトロピカルかよと軽蔑したくなります。すっきりしてオシャレな柑橘系に比べて、言っちゃ悪いけどモタモタでダサダサなんですよね。人間でなく、ジャングルのゴリラに似合うのも不思議ではありません。それに、果物を食べて腹一杯になるなんて、バナナ以外にあり得ますか?
そんなバナナを見直したのは、つい一昨日のことです。冬をミカン三昧で過ごすボクは、今のシーズンなら苺が好物ですが、決して安くはないですよね。いちいちヘタを剥いて水洗いというのも面倒くさい。そんな苺の味にも飽きてきたかな、という頃に、たまたまスーパーに並んでいたバナナを見つけたのであります。昔とは違って、実にスタイリッシュな雰囲気を纏っているではありませんか。何より透明の袋入りですぜ。
ボクの知っているバナナは、薄汚い黄色の房に、限りなく黒に近い焦茶色の大きなシミがあちこちにあり、いかにも輸送船の倉庫で長いこと揺られてきましたという風情でした。ところが、そのバナナは薄いシミがあるものの気になるほどではなく、小綺麗な黄色で肌ざわりも滑らか。それまで食べたバナナがランニング姿で鼻水垂らした田舎の悪ガキとすれば(時代感がある比喩ですな)、山の手の豪壮な家で大切に育てられた深窓の令嬢というくらいの違いがあります。
しかも、価格は苺の半額程度。にもかかわらず、ボリューム感は昔と同じです。んじゃあ超久しぶりにトライしてみるかと、あまり期待しないで購入して食べてみたら、味も段違いなんですよね。もちろんほんのりした控え目な甘味は共通していますが、濁りというか混じりっけがない。雑味がないせいか、果肉の個性がピュアに感じられるのです。かつてのモチモチ感も、どういう栽培方法なのかサクサク感が加わっているため、後味もクールなんですよね。
おかげで「こりゃうまい」と一気に3本を食べてしまいました。ゴリラかよ。それで翌日は、2束をまとめ買いして冷蔵庫に投入。そこに緊急事態宣言ですから、今後の供給は大丈夫でしょうか。数十年ぶりにバナナと劇的な邂逅を果たしたので、しばらくは濃厚接触を続けていきたいんだけどなぁ。
ランキングに参加しています。お気に召したら、ポチッと↓