奇怪なエレベータ
経緯は省略しますが、先週は1970年代に建築されたマンションを訪問しました。駅近くの大型団地という風情ですが、エレベータが実に奇妙だったのです。
昔の低層建築はエレベータが義務付けられていなかったらしく、大学の古い研究棟などの取材でたまにハァハァと息を切らせて階段をいくつか昇ったこともあります。このマンションは11階建てなので、ちゃんとエレベータがあり、しかも2基が隣り合わせで設置されていました。
100戸ほどを擁する大型マンションですから、2基あることは納得できますが、停止階がヘンなのです。どちらも、1階、2階、5階、8階、11階しか表示されていません。その間はドットとして飛ばされています。つまり、その中間のフロアは階段を利用するしかないわけです。エレベータを途中で止めるのは造作もないことなのに、どうしてこんなことをするのだろうと怪訝に感じますよね。最初は飛び飛びだったとしても、設定さえ変えれば全フロアに停止できると思うじゃないですか。
ところが、中間の階に行ってみて、それが不可能である事情がよく分かりました。外階段を降りて、エレベータが停まらない住戸に行ってみると、2つの玄関口が階段の踊り場を挟んで向かい合わせになっていたのです。文章ではうまく説明できませんが、まるで缶入りのオイルサーディンのようにぎっしりと住戸を詰め込むために、エレベータを各階に停まらないようにしたらしい。エレベータが停止しないフロアは住戸の間を貫通していくだけですから、乗り込むためのホールは不要。その面積を中間階の住戸に振り分けているのです。
ただし、エレベータの面積を単純にケチるだけでなく、それなりの巧妙な工夫が施されているんですよね。こんな複雑な構造のどこが「巧妙」なのかと言えば、中間階の住人は、階段を降りる面倒はあっても、昇る負担はないからです。例えば9階の住人が通勤で1階に降りる時には、フロアを1つ下って8階のエレベータを利用すればいい。帰宅した時はエレベータで11階まで上がってから2つ下れば9階となります。10階の住人も、行きは2つ下って8階でも、帰りは11階から1つ降りるだけですから、どちらも合計は3階分で不公平はありません。エレベータが停止するフロアは確かに便利ですが、それ以外の中間階の負担はすべて同じになるように設計されているのです。ほらね、ちょっと感心しませんか。
しかしながら、これは人間の移動に限ったことであって、引っ越しなどでモノを運搬しようとすると大変なことになります。いくら下りとはいっても、分解できない大型ロッカーやタンスを担いで階段を降りるのは体力が必要になるので、おそらく特別料金になるはずです。中古で売却する時にもデメリットになるので、このエレベータ設定はやはり無理があるとしか思えません。
ちょっとばかりの面積をケチるために関係者があれこれと知恵を絞って苦労するのは、むしろ時間と手間の無駄だとは思わなかったのかなぁ。特殊な構造なので、建設時にもそれなりのコストアップになったはずです。そんなことより、住み心地を少しでも良くするのが設計者の本来的な仕事ではないでしょうか。
頭の使い方というのかなぁ、発想の方向性そのものがちょっと間違っているんじゃないかという事例として、ご紹介いたしました。それに類したことは案外少なくないようにも思うんですけどね。
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