我慢するにもホドがある
広告代理店が企業の宣伝部だけでなく、人事部からも大きな予算を引き出せるようになったのが1980年代です。バブル景気が拡大を続ける一方で、深刻な人手不足が進行。大学新卒者を取り合う状況になっていたため、求人予算が膨れあがっていったのです。真偽は知りませんが、大企業では新卒1人あたりで平均2~300万円もかけていると聞いたことがあります。
それを追い風として、既存の代理店やマスメディアを出し抜いて急成長したのがリクルートだったんですよね。今でいえばGAFAみたいなもので、新聞や雑誌の将来性に見切りを付けて、同社に志望変更した学生は少なくありませんでした。おかげで虎の門の細長いビルに入居していた学生ベンチャーはどんどん事業を拡大。やがては新橋に近い銀座に大きな自社ビルを構えるほどになりました。
ところが、求人市場自体はバブル崩壊を経て一気に暗転。90年代からご存じ「氷河期」と呼ばれる就職難に突入したのです。2000年前後から学生の就職意識を高めるキャリア教育が普及していきましたが、08年秋にはリーマンショック、そして11年春に東日本大震災が発生。求人市場はどん底といっていいほど冷え込み、誰もが名前を知る大学ですら新卒者の就職率が6~7割だったんですよね。10人が大学を卒業したら、そのうち6人くらいしか正社員になれず、残り4人は派遣やフリーターなど非正規雇用に甘んじるほかなかったのです。
それでも人間の身体と同じで傷は必ず癒えるものでありまして、求人市場は経済の復活と歩調をあわせてどんどん改善。3~4年前からは「売り手市場」に転じたといわれます。はぁ、ようやく現代に近づいてきましたが、早い話が新型コロナで就職市場はどうなるかってことです。
少子化で若年人口というパイそのものが縮小しているので、かつてほどの就職難にはならないという希望的楽観論がある一方で、いやいやすでに内定取り消しが出ているじゃないかという悲観論もあります。いずれにしても、企業の人材選抜がより厳しくなることだけは間違いないとボクは見ています。
しかしながら、新卒予定の学生個人にとっては、こんなことはあまり関係ないんですよね。天気と同じで、雨が降りそうだからといって誰もそれを止められないじゃないですか。傘をさすことは可能でも、土砂降りなら濡れるのは避けられません。景気や就職市場もそれとまったく同じですから、自分自身が何を望み、どうありたいかをきちんと認識して行動するほかないんですよね。ネットなどの情報を鵜呑みにして結局は失敗したら、それこそ悔いが残るではありませんか。かつてはリクルート、ちょっと前ならITベンチャー、そして今ではGAFAですけど、企業の寿命はどんどん短縮化しているので、今の強者がいつまで続くか誰も予想できません。そんな外的状況に振り回されるくらいなら、最初から自分のやりたいことを目指したほうがいい。
とはいっても、そのやりたいことが分からないというのが若い人の本音ですよね。ボクなんかシニアになった今でも分からないくらいですから。ただし、やりたくないことはあるはずです。ちなみにボクは、スーツを着るのがイヤでした。母親はオヤジのような菜っ葉服のエンジニアを望んでいたようですが、ボクは残念ながら文系なのでハナから無理ってものです。そこで自由業の極致である小説家か詩人を目指したのですが、そんな才能があるわけがない。ただし、その過程でマスメディアの世界を覗くことができ、そこでは服装が比較的自由であることを発見したのです。
ま、そういうわけで、ボクが若い人に言えるのは、イヤなことを我慢してまでやることはないってことかな。自分がイヤなことは他人もイヤなはずなのに、どういうわけかそういうイヤなことをやるのがあたりまえというのが、これまでの日本社会でした。そのために官僚が国会で大嘘をつき、資料を改竄させられた役人が自殺しています。我慢するにもホドがあるってものじゃないですか。あ、我慢するのと頑張るのは意味がまるで違うので念のため。
だからね、ホントに信じられるのは自分しかありません。そんな自分の思いにできるだけ忠実に生きていく。大きな状況の変化に対抗するには、それしかないだろうとワタクシは信じるのであります。
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