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福助くん その6

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    福助くん、9歳の秋です。 ちょっと長めの散歩をして、世田谷公園へ。 紅葉と福助をご覧くださいまし。

福助くん その5

  • 赤いサルビア♪
    2010年秋の福助くん。とある週末に埼玉県所沢市にある航空公園に行ってきました!

福助くん その4

  • 1 毎年恒例の・・・
    今さらですが、今年の花見の福助くん。ご近所の目黒川に行ってきました。

福助くん その3

  • 1 田舎に行ってきました!
    飼い主の田舎に行ってきた福助。うららかな春を迎えた大自然のなかで、いつもと違った表情に。

福助くん その2

  • 定位置
    平日は会社にいる福助。こんな感じの毎日です。

福助くん その1

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小説・創作

2013年8月19日 (月)

質量保存の法則

 

 最近はなぜだかケータイやスマホのカメラで食事前に料理を撮影する人が増えてきたように感じます。そういえば、都知事選にいつも出馬する東大出身の自称「エジソンを超えた」発明家は大昔に同じことをやっていました。自分の食べた料理の写真をアルバムとしてまとめるだけでなく、そのデータを分析して「アタマの良くなるオヤツ」みたいなものを「発明」していた時期があります。

 

 私はこれを食べてきたから発明のひらめきを得た=アタマが良くなったという理屈ですから、何という自信家だろうと呆れるほどですが、そのオヤツというのが姿カタチも味も浅草煎餅そっくりだったと記憶しています。なぜ知っているかというと、取材のついでにススメられて断り切れなかったからです()。アタマはちっとも良くなりませんでしたが。

 

 でも、食事の前に料理の重量を計測する人はまだいないんじゃないかな、ということで、そんな男を主役にした小説が書けないかと構想しています。

 

 コトの発端は、健康診断でこまめな体重測定を勧められたことです。糖尿病などの生活習慣病が想定される年齢ですからね。そのためには体重計が必要ですけど、独身男でそんなものを持っている奴は変人といったほうがいい。そこで家電量販店で格安のデジタル体重計を購入。朝・晩の2回測定することを習慣にしようと考えました。

 

 当初は75キロレベルで安定して推移していたのですが、ちょっと多忙で1週間ほどサボっているうちに2キロほど増えているではありませんか。煙草をやめてから食事が美味しくなったという自覚はありますが、1週間で2キロも増えるような食事をした覚えはありません。むしろ以前より食事量は減っているはずで、酒の量も激減といっていいほどです。

 

 にもかかわらず、なぜ体重が2000グラムも増えたのでしょうか。物質が化学反応しても、その前後の総質量は変化しないとする「質量保存の法則」によれば、いくら食べたものがすべて血肉になるにしても、その総量より体重が増加するなんてことはあり得ません。極端にいえば、何も飲んだり食べたりしなければ、体重は減っても増えるはずがないのです。

 

 でね、その主人公はどうにも自分の体重変化に納得がいかないので、検証を試みることにしました。つまり、自分が飲んだり食べたものの重量を記録することにしたのです。痩せたい時には摂取カロリーを計算しますが、この主人公の場合は物理法則を無視したことが体内で起きているのではないかと疑ったので、重量がポイントになるわけです。

 

 かくて、食事の時には肉が200グラム、生野菜が40グラム、煮物などで40グラム総計280グラムなどと記録するようになりました。飲み物はすべてペットボトル経由にすることで重量として計算しやすくしたのです。

 これらを累積して、それ以上の体重増加があったら自然科学の常識を変えるようなことが起きていることになります。

 

 幸いに、そのような事態は起きませんでした。けれども、すぐに彼は「入り」だけで「出」を測っていないことに気づいたのです。つまり、尿と便の重量も計測して「入り」の重量から差し引いてから比べないと「おかしい」とは言えません。ところが、液体のほうは尿瓶で何とかできても、固形のほうはどのように計測すればいいのか。いつも固形とは限らず、体調によっては流体状の時だってあるはずなので、これをどのように計測すればいいのか……。

 

 などと話は延々と続くわけですね。このように構想はまあまあ()でも、うまいエンディングが思いつかないので、この段階で放置しました。もし体重が飲食の総量より増加していることが検証されたら、SFか不条理小説にしなきゃいけない。けれども、そうなるともっと破天荒な想像力が必要になるんですよね。

 

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2011年7月13日 (水)

「珍品堂モノ語り」(習作2)白い貝殻

 東京・山手線内側の都心でも、何かの事情で開発から取り残されてしまった場所がいくつかある。渋谷の隣駅の恵比寿にも、昭和な感じの木造2階建てアパートや廃屋が軒を連ねる一画があり、その中に沈み込んだかのような目立たない店が、珍品堂だ。

 板の切れ端にぞんざいに書かれた店名の横には、小さく「売ります、買います」とある。

 初夏の暑い日に、ダークグレーのスーツを着て、大きなカバンを持った若者が、珍品堂の前で佇んでいた。流れ出る汗を、しきりにハンカチで拭いている。

「遠慮せず、入ったらどうかな」と、ふいに店主が奥から表れて彼に言った。

「いえ、特に買い物の予定もないので」

「果たして、そうかな」と店主は呟いて背中を向けた。

 若者は自然に、その店主の後を追う格好になって中に入った。珍品堂の玄関はガラス戸なのだが、いつも開けっ放しになっているのだ。

「まだ就活中なんです」と彼は恥ずかしそうに言った。

「スーツを着慣れていないから分かったよ。それにネクタイの結び目をいじるのも、慣れない証拠だ」

「だからかなあ……」

「みんな一緒なのだから、それが理由で落ちたわけではあるまい」

「でも、内定を決めた奴はみんなちゃんとしているみたいなんです」

「くだらん」

「僕も早く決めないと、大変なことになっちゃいますから」

「まあいい。店に入ったのだから、忘れなさい、そんなことは」

 若者は店内をまず目だけ動かして見た。それからゆっくりと首を回した。

「ヘンな店ですねえ」

「余計なお世話だ」

「コンセプト、っていうんですか、商品構成がバラバラで統一感がないですよね」

「そういうことはズケズケ言えるんだな」

「経営学部なので……、すいません」

「まあ、いいよ。好きなだけ見てくれ」

 しばらくウロウロしていると、若者はふと白い貝殻を目にして、手に取った。

「ふーむ。それが呼んだのか」と、店主はいわくを語り始めた。

 ある地方の有名進学高校で、その事件は起きた。女子生徒が2年生の終わりに失踪してしまったのだ。担任の先生は、理由を知っていた。それ以前に、親が突然に「来年度に転校させる」と通告してきたからだ。いなくなったのは、その女子だけでない。もう1人、ある男子生徒も消息が分からなくなっていた。

 女子生徒の親は地域の素封家で、手広く事業をやっていた。どうやら彼女は、その男子生徒と恋仲になったらしいのだが、彼の親父は飲んだくれで無職。母親の仕事で何とか生計を立てている家庭だった。それでは釣り合わないということで、以前から注意はしていたらしい。ところが、若い男女は止められれば、それに絶対に逆らう。ロミオとジュリエットですな。

 そんなことの繰り返しの中で、「いっそのこと」と駆け落ちすることにしたらしい。

 今では、そんなに頑固で厳しい親は絶滅寸前。高校生も昔よりずっと賢くなってきたので、駆け落ちなどという、どう考えても割に合わない、ハイリスクな選択などしないだろうが、昔はそういうことが実際にあったのだ。

 もちろん想像の通り、こうした若い純愛の末路は悲惨である。17歳で何とか東京にやってきても、高校中退の身元不明では、まともな仕事には就けない。男は何とかツテを探して、短期の派遣仕事を繰り返した。保証人がいないので、アパートも借りられず、都会を漂流するように暮らすことになった。

 それでも彼女は幸せだった。好きな男子と一緒にいられるのだから。彼もまた、酒乱の親父と気の弱い母から逃げられたことに解放感を得ていた。もう帰るつもりなどない。何とかして、この都会を生き抜いて、彼女を幸せにしてやるのだ。

 それから1年もすると、彼はある暴力団の下部組織で使い走りをしていた。彼女は年齢を隠して新宿・歌舞伎町のクラブでホステスになっていた。彼は自分の将来を描くことができず、彼女も酔客のしつこい口説きに閉口するようになる。それまでまったくなかった口喧嘩を、落ち着くに連れて頻繁にするようになった。彼は彼女の浮気を疑い、彼女は彼への失望を深めていった。

 そして、しばらくすると、彼女は置き手紙をして粗末な安アパートを後にした。その手紙の上にあったのが、白い貝殻だ。彼と彼女が最も幸福だった頃に、手をつないで歩いた海岸に落ちていた。

 彼女は実家に連絡して、「これから帰る」と短く伝えてから列車に乗った。その頬に一筋の涙の跡があった。

 だが、例によって、話はこれで終わりではない。

 それからおよそ10年の歳月が経過した。

 東映の実録ヤクザ路線なら、彼はヒットマンとなって抗争に参加。敵の組長を拳銃で射殺して、自首のために出頭する途中で、偶然に彼女と出会って貝殻をそっと渡すなんて場面になるだろう。

 ところが、彼が末端で手伝っていた組織の組長はなかなかの人物で、暴対法によってシノギがどんどん厳しくなることを知っていた。「お前は○○高校だったろう。もともと頭はいいんだから、こんなことをやっていてはいかん」と、旧知の政治家の書生にしてしまったのである。

 それから彼は勉強して大学入学資格検定(現在は高等学校卒業程度認定試験)に合格。その後、大学を卒業して、その政治家の秘書になった。

 一方、彼女は親が決めた、つまらん男と結婚した。無断で家出して帰った以上は、もう親に逆らうことはできない。だが、財産があることだけが取り柄の男で、すぐに彼女に飽きてしまうと、ほぼ公然と浮気を繰り返す。政略結婚なんて、そんなものです。かくて、彼女の親も辛抱できなくなり、離婚させてしまった。

 その頃に、彼が師事した政治家は心筋梗塞で突然に亡くなり、跡を継いで立候補することになった。慌ただしく周りは準備を進めているが、彼は今ひとつ乗り気になれない。彼は彼なりに、彼女の消息を調べていたのだ。

「今まで本当にお世話になりましたが、どうしてもやらなければならないことが残っています。3日間だけ、僕を自由にさせてください」

 そんな手紙を残して、彼は生まれ故郷に戻った。そして、再び彼女に会って、残された白い貝殻をもう一度手渡したのである。

 リクルートファッションの若者は、この話を聞いて「随分と運のいい人たちですね」と店主に言った。

「人生にレールは1本と決められているわけではない。これからいくつも違ったチャンスがやってくる。だがな、諦めたら、それで終わりなんだ」

「理屈はそうでも、社会の入口で失敗すると、非正規で一生を終えるなんてことになっちゃいますよ」

「そういう姿勢だから落ちる。今の会社にぶら下がりやしがみつきを入れる余裕はないはずだ。だから、会社なんてのは、入れてもらうのでなく、オレが入ってやるという気構えでなければ、評価されないぞ」

「そうかなあ」

「さあ、これを買え」と店主は、白い貝殻を押し付けた。

「押し売りみたいですね。でも、話を聞いていると縁起は良さそうだな。いくらですか?」

「10万円だ」

 若者は驚いて目を見開いた。

「ちょっと、あまりに高いですよ。ただの貝殻じゃないですか」

「ただし、ある時払いの催促なし。お前が払いたくなったら、この店に持ってこい」

 果たして、この若者がうまく就職できたのかは分からない。ただ、採用面接には、その白い貝殻を握りしめて臨んだという。

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2011年7月12日 (火)

「珍品堂モノ語り」(習作1)

「この店はね、元気な人には見えないんだよ」

 珍品堂、と書かれた看板、というより板きれと言ったほうが適切だが、その名前に惹かれてふと入った店の奧から、主らしい人の声が聞こえてきた。白髪まじりの頭から想像するに、60歳前後らしい。顔はまだよく見えない。

「どういうことですか?」

「普通の人は、こんな小汚い店に興味なんか持たない。だから見過ごしてしまう。けれども、時々あんたのようにフラリと入ってくる客がいる」

「何となく面白そうだなと思ったので」

「それだけではないだろう」

 確かに、それだけではなかった。ひどく疲れていたのだ。うまく社会に適応してきたと思いこんでいたが、どうやらそうではなかったらしく、昨夜はひどく悪酔いして、上司と激論してしまったのである。会社の業績も下降気味で、レギュラーだったはずの取引先を失った。それが私のせいだと、ヤツが指摘したのが理由だ。殴りこそしなかったが大声で「バカヤロー」だから、悪い印象を持たれたに違いない。

 それが後をひいてしまい、翌日は体調不良を利用に会社を休んだ。きっと今頃、上司はあの一件を社内で吹聴しているに違いない。それを想像すると、ますます気持ちが萎えてしまう。いっそ辞めてしまおうかと思いながらマンションを出て、フラフラ歩いているうちに、この店を通りかかったのだ。

「こちらは骨董屋さんなんですか。それとも古道具屋かな」

「そうでもあり、そうでもない」

「壷だとかの焼物系はほとんどありませんよね」

 そう言いながら目を泳がすと、古びた壁に掛けてあった絵を見つけた。目を凝らしてよく見ると、完成したジグゾーパズルだ。

「あれはジグゾーですか。でも完成したものなんて誰も買わないですよね」

 そう言いながら、ゆっくりとその絵に近づき、表面を指で軽く撫でてみた。

「これ、一つピースが欠けていませんか」

「ああそうか。それが呼んだのだな」と店主は言う。

「何だかいわくがありそうですね」

 そう訊ねると、店主は私の目をじっと見つめて、話を始めた。

 高校時代に意気投合して、親友になった2人の男がいた。1人は真面目な努力家だが、もう1人は要領良く立ち回る外向的な男だった。お互いに違う性格なので、逆にウマがあったのかもしれない。

 進学した大学も学部も違うのだが、つかず離れずで交流を続けてきた。真面目クンは卒業後に上場企業に就職。一方、外向クンは就活をナメていたせいで、卒業ギリギリになって中小企業に入ることになった。

 別々の会社に就職すると、普通は縁遠くなるものだが、彼らは年に数回は会っていた。

「いいよな、大手の会社は。オレのとこなんか社長がワンマンで大変だよ」と外向クン。

「給料は確かに悪くないけど、僕の大学のランクでは下っ端間違いなしで出世なんて無理だからさ」

 そんな日常が変わり始めたのは、意外なことに真面目クンが酒酔い運転で事故を起こしてからだ。

 真面目クンらしくないことだが、取引先とのトラブルで珍しく酒に走った。そんな時に親から連絡があり、母親の具合が良くないという。たまたま会社の営業車で帰宅していたことから、その車で2時間ほどかかる実家に向かってしまったのだ。事故は幸いにも電柱にぶつかった程度。違反も酒酔いでなく酒気帯びで、書類送検で済んだのだが、営業車を使っていた関係で会社は彼をあっさりと解雇した。

 その頃に、外向クンも危機に陥っていた。取引先に誘われて行った闇カジノにはまってしまい、数百万単位の借金を背負ったのである。真面目クンはいきなり会社のレールからはじき飛ばされ、外向クンも抜き差しならない。

「僕は真面目にやってきたように見えるかもしれないが、今度の件で、つくづく社会がひどく冷たいところだと分かった」と真面目クンは言う。すると外向クンも「結局は人をダマしたヤツが勝ちなのさ」と応じた。

 それで彼らは、いつか2人で会社を立ち上げるために、「オレオレ詐欺」に手を染めることにした。方法は闇カジノのマネジャーが紹介した男が教えてくれた。アガリの2割が条件だ。2人の目標は、半年で3000万円。それさえあれば、何か店でもやれるではないか。

 それから半年後に、真面目クンが社長で、外向クンが専務という会社が誕生した。仕事は、外向クンの会社が扱っていた部品の販売であり、当初はうまくいっていた。だが、不良品を納品したことで、会社の信用を一気に失ってしまった。

 しかし、その頃に彼らは、ある女性と知り合いになった。彼女は富豪の娘であり、うまく結婚できれば確実に逆タマになれる。そこで2人は真剣に相談した。どちらが、それを取るか。

「お前に譲るよ」と真面目クン。

「いや、彼女はともかく、あの親はオレよりお前を信用するはずだ」

 このあたりが親友同士らしい思いやりなのだ。まだ付き合い始めで、どちらにも好意を持っているようだから、1人に決めれば何とかなる。

「仕方がない。後腐れのないジャンケンにするか」と外向クンが言う。

「じゃ勝った方がモノにする権利を得ることにしよう。1回じゃ何だから、3回勝負な」

 深夜のバーで、人生を賭けた真剣なジャンケンが行われ、外向クンが勝った。

「僕はボロ会社と心中か」と真面目クンはため息をついた。

「心配するな。うまく行ったらカネを回すから」

 外交クンは持ち前の口説きトークで、短期間に結婚に至った。ところが、逆タマ亭主ではカネはそれほど自由にならない。親の会社に転職してから結婚し、豪邸に住んではいるが、親が死んで相続するまでは無理なのだ。

 その間に、真面目クンはますます窮地に陥っていった。

「カネはどうなった」

「まだ無理だよ」

 債権者からの厳しい催促で、真面目クンは再び「オレオレ詐欺」に手を染めることに。だが、その頃は警察の監視も厳しくなっており、逮捕される恐れが出てきたので、真面目クンは夜逃げを決心した。

「そんなわけで、しばらく海外に逃げるよ」

「大丈夫か。すまないなあ、オレが勝ったばかりに」

「高校の頃に、退屈しのぎで2人で作ったジグゾーバズルみたいなものさ」

「あれ、まだ持っているのか?」

「ああ。結局、僕はあのジクゾーからはじき出されてしまったんだろうね。最初の会社まではうまく嵌めてきたのに、ちょっと揺れたらポンって抜け落ちてしまった。それまでの苦労が水の泡だよ」

「そんなことはない。また、合わせればいいんだ」

「残ったピースは1枚しかないんだよ。だから、お前にこれをやる」

 真面目クンが広げた手の中には、1枚のジグゾーピースがあった。

 話はここで終わらない。外向クンは、妻との仲が次第に冷えてきたのである。酔った勢いで漏らしてしまった「ジャンケン」がショックだったらしい。真剣な恋ではなく、グーチョキパーで勝手に決められたのだから、これは無理もない。

 妻は別の男と浮気を始め、やがて離婚話に。そうなれば、外向クンは一気に何もかも失うことになる。その怖れと怒りとヤケもあって、ある夜に口論の果てに妻を包丁で刺してしまった。

「これが、そうだよ」と店主は、ポケットからシミのついたピースを出した。

「すると、このシミは血ですか」

「絵に嵌めてみたらどうかな」

 やってみると、ピタリと合うはずなのに何かが違うらしく、カチリとうまく嵌まらない。

「絵柄は間違いないが、ピースが歪んだんだろうな」

「いろいろな人生があるものですねえ」

「で、どっちを買う?」

「はあ?」

「このピースか、あの絵か。両方買っても、絶対に完成はしないが」

 未完成のジグゾーを飾る気もしないが、血のついたピースも不吉きわまりない。

「買わなければいけない、ということもないですよね」

「あんたには、こっちかな」と店主は強引にピースを押し付けてきた。

「いくらですか?」

「500円」

「そりゃ助かりますが、ちょっと安くないですか」

「その程度の小話だからな。これはあんたのお守りにしなさい」

 それが作り話だったのか、本当の話なのかは分からない。黒いシミも血とは限らないだろう。いずれにしても、私は翌日に出社して、上司に暴言を詫びた。

 おかげで会社というジグゾーのピースに、無事戻ることができたのである。

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